私を抱いて…離さないで

真田晃

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第三章 パパ

76.

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「冷たくないかな?」
「……」
「痛かったら、ちゃんと言うんだよ」
「………はい」

床に敷かれた先生のジャケット。その上に座れば、正面に腰を落とした先生が、私の二の腕にそっと触れる。

「……」

今更だけど……まさかこの場でするなんて、思わなかった。
もう、数人の男性にこの身体を売ったけれど……今までのどの人達よりも緊張して、背徳感が増していく。

劣情を含んで濡れる瞳。
その視線が、優しく私を包み込む。
少し冷えた先生の指先が、服の裾から差し込まれ、肌の上を滑らせるようにして上がっていく。

「………だめ、」

先生を見つめたまま、その手を止める。
私の行動に少し驚いた先生が、眼だけで何故かと問いかけたような気がした。

「そういう、約束だから……」

言いながら、目を伏せる。
それでも強引に触られた記憶が蘇り、手を緩め、諦めたように溜め息をつく。

「そうだったな」
「……」

え……
驚いて視線を上げれば、先生の顔が迫り、唇を重ねられる。

……ちゅ……くちゅ……
咥内を掻き混ぜられ、舌を絡められ、思考ごと吸い上げられていく。
腿裏に手が掛かりクイと持ち上げられれば、緊張から身体が少し強張った。

「……挿れるよ」
「……」

鼻先に掛かる、熱い吐息。
今までのどの人よりも、優しい対応。
大人の余裕なのか。それとも、こういう事に慣れているのか。
こんな風に優しくされたら……他の人に身体を売れなくなってしまう。
売るのが、怖くなってしまう。


ズ、ズズ、……

……あ……
挿って、くる。
内壁に感じる圧。先程指で刺激された所を探り当て、優しくゆっくりとそこを突く。

「ここ、だね……」
「……」

何だろう……ヘンな、感じ。
下腹部辺りが熱い。触れてはいけない所を弄られているような、ヘンな感覚。

「いっばい濡れて、ぐちゅぐちゅになってるの、解るかな?
それに……きゅっと締めつけて、僕を離してくれそうにない」
「……」
「……感じ易いんだな、果穂の身体は」

え……
先生の台詞に、耳を疑う。
気持ちいいとか、そんなの感じた事ないのに……

「もう少し、早く動くよ」

間近で顔を覗き込む先生が、そっと私の前髪に触れる。
眼鏡の奥……愛おしげに細められる、二つ瞳。


ズッ、ズッ、ズッ──
………はぁ、はぁ、はぁ、

先生が腰を打ち付ける度に、上下に揺れる視界。
圧を感じたのは最初だけで、今はもう……何も感じない。
こんな、身体の一部を女性の中に入れる行為に、何で男は興奮するんだろう。
変なの。あんなに余裕そうな顔をしていたのに。いつの間にか恍惚とし、切迫詰まった表情を浮かべているなんて───

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