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第三章 パパ
69.
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《今日、菱沼に絡まれたんだってね》
《大丈夫?》
バイト終わりに携帯を見れば、安藤先輩からメッセージが入っていた。
『釣った魚には、適度な餌しかやらない』──AV出演の一件で関わった、柄の悪い人がそう言っていたのを思い出す。
だったら。敢えて釣られたふりをしていれば、そのうち私の事なんて興味が失せていくだろう。それにもし、私が真面目で純潔だと思っているのなら……援交の事実を知った時点で、きっと軽蔑して離れていく筈。
そうなれば、AVの一件での首謀者が誰であれ、私への卑劣な行為もなくなる筈。
〈はい。大丈夫です〉
送信ボタンを押して、携帯を仕舞う。
そんな割り切った考えで、全てを片付けてしまっていいのか解らない。
罪悪感なら、ある。あの日、お金を盗まれて一文無しになった私を助けてくれたのは、安藤先輩だから。
「──!」
仕舞って直ぐ、携帯が震える。
取り出して画面を見れば、コールは安藤先輩から。
こんな時に、先輩と話をする元気なんてない。重い気持ちのまま、通話ボタンをタップする。
『もしもし、果穂。バイト終わった?』
相変わらずの、優しい声。
祐輔くんのそれとは違う、もう少し気楽で軽い感じだけど。
「………はい。今終わった所です」
でも、これからはかせという人と会って、今日のお詫びをする事になってて……
『まだ店?』
「え、……はい」
『じゃあ……今から迎えに行こうかな』
「………」
『っていうか、もうそこまで来てるけどね』
「………え」
驚いて顔を上げれば、大通り側では無い、外灯の少ない公園の脇道から、大きく手を振る先輩のシルエットが見えた。
──え、どうして。
バイト先、教えた事無いのに……何で……
「驚いた?」
「……」
微動だにしない私の目の前に立ち、先輩が爽やかな笑顔を向ける。
………何て言ったら、いいんだろう。
もし私が、最初から先輩の事を好きだったとしたら。
もし私が、早々にあの取り巻きの仲間入りをしていたら。
こんな事をされて、嬉しいとときめき、感激して……もっと先輩を好きになったりしたんだろうか。
《大丈夫?》
バイト終わりに携帯を見れば、安藤先輩からメッセージが入っていた。
『釣った魚には、適度な餌しかやらない』──AV出演の一件で関わった、柄の悪い人がそう言っていたのを思い出す。
だったら。敢えて釣られたふりをしていれば、そのうち私の事なんて興味が失せていくだろう。それにもし、私が真面目で純潔だと思っているのなら……援交の事実を知った時点で、きっと軽蔑して離れていく筈。
そうなれば、AVの一件での首謀者が誰であれ、私への卑劣な行為もなくなる筈。
〈はい。大丈夫です〉
送信ボタンを押して、携帯を仕舞う。
そんな割り切った考えで、全てを片付けてしまっていいのか解らない。
罪悪感なら、ある。あの日、お金を盗まれて一文無しになった私を助けてくれたのは、安藤先輩だから。
「──!」
仕舞って直ぐ、携帯が震える。
取り出して画面を見れば、コールは安藤先輩から。
こんな時に、先輩と話をする元気なんてない。重い気持ちのまま、通話ボタンをタップする。
『もしもし、果穂。バイト終わった?』
相変わらずの、優しい声。
祐輔くんのそれとは違う、もう少し気楽で軽い感じだけど。
「………はい。今終わった所です」
でも、これからはかせという人と会って、今日のお詫びをする事になってて……
『まだ店?』
「え、……はい」
『じゃあ……今から迎えに行こうかな』
「………」
『っていうか、もうそこまで来てるけどね』
「………え」
驚いて顔を上げれば、大通り側では無い、外灯の少ない公園の脇道から、大きく手を振る先輩のシルエットが見えた。
──え、どうして。
バイト先、教えた事無いのに……何で……
「驚いた?」
「……」
微動だにしない私の目の前に立ち、先輩が爽やかな笑顔を向ける。
………何て言ったら、いいんだろう。
もし私が、最初から先輩の事を好きだったとしたら。
もし私が、早々にあの取り巻きの仲間入りをしていたら。
こんな事をされて、嬉しいとときめき、感激して……もっと先輩を好きになったりしたんだろうか。
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