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第二章 人と、金と…
61.
しおりを挟む「……」
『もしもし、果穂ちゃん?』
耳に当てたまま、息が止まる──
ずっと不安で仕方がなかった私の心に、抵抗無くスッと入ってくる、祐輔くんの明るい声。
たったそれだけ。なのに、不安が泡のように弾けて消えていく。
胸の奥から熱いものが込み上げ、容易に涙腺を緩ませる。
さっき拭い取ったばかりなのに──もう下瞼の縁に涙が溢れ、頬骨の上を掠めて零れ落ちる。
『久し振り……って、まだ3日しか経ってないか』
はは…っと電話の奥で、祐輔くんが笑う。
パッと花が咲いたように明るくて……温かい。
『この前は、バースデーのお祝いに来てくれてありがとう。
少ししか一緒にいられなかったけど、果穂ちゃんに逢えて良かった。……嬉しかったよ』
「……」
『けど、あの後直ぐ帰っちゃったのは、寂しかったな……』
──淋しい……
本当に……そう感じてくれたの……?
「……」
でも、これはただの営業トーク。
そんな事ぐらい、解ってる。
解ってる……のに。ぐらぐらと揺さぶられて──心が、震えて止まらない。
「………」
私も、淋しかったよ。
祐輔くんと、あまり一緒に居られなかったから。
……凄く、淋しかった……
『………逢いたい』
突然。心に抱えていた言葉が、美麗くんの口から零れる。
その瞬間──ドクンッ、と心臓が大きく跳ね上がった。
『今すぐ飛んでいって、果穂ちゃんの頭をよしよししてあげたい』
「………え、」
『だって果穂ちゃん。……今、泣いてるでしょ』
「──!」
……な、んで……
声が、息が、指先が……震える。
今、そんな事言われたら──
押し殺していた感情が溢れ、鼻を啜る音や小さな嗚咽が漏れてしまい……堪えていた涙が止めどなく、ぽろぽろと溢れて足下へと落ちていく。
『ごめんね。飛んでいくの、声だけで』
「……」
『よしよし』
優しく耳元で響く、祐輔くんの声。
目を瞑れば、直ぐ傍にいるようで……
不思議。
あんなに辛かったのに、痛みが和らいでいくのが解る。
『──あ、果穂ちゃん。そこから月見える?』
「……」
片手で涙を拭い、濡れた睫毛の先を天に向ける。
夜空に一際輝く、大きな満月。
蒼白く光るそれは、都会の汚れた空気や煌びやかな街のネオンに動じる事無く、堂々とそこにあって……
「……きれい」
『うん、綺麗だね』
穏やかで、落ち着いた声。
電話口から伝わってくる、祐輔くんの雰囲気。
まるで、直ぐ傍に祐輔くんがいて、一緒に同じ月を見上げているみたいで。
心の中がじんわりとあったかくなって、すごく、安心する……
『……良かった』
「え……」
『果穂ちゃんに、笑顔が戻ったみたいで』
「……」
見えない筈なのに。
雰囲気や声だけで、私の様子を察してくれる。
私の事を、解ってくれる。
「………うん。ありがと」
それが、何よりも嬉しくて………寂しい。
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