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第二章 人と、金と…
59.変わらない優しさ
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* * *
「──ありがとう、ございました」
深夜11時過ぎ。
金銭の授受を終えて軽く頭を下げる。
立ちっぱなしでむくんだ足。何だか今日は、身体がだるくて疲れやすいかも。
そんな事をぼんやりと思いながら、レジに客が捌けると急いで商品チェックに戻る。
こんなバイト、いつまで続けるんだろう。
欠員の穴埋めをして、店長よりも長い時間働いて──それでも。一ヶ月のバイト代は学費やら家賃やら生活費やらに消え、手元に残るのはほんの僅か。
……なに、してるんだろう。
祐輔くんと、長い時間一緒にいられるのは、お金を沢山落とすお金持ちだけ。
「……」
ふと、ホストクラブのトイレでの出来事が、頭を過る。
キャバ嬢──華やかな世界。中年のおじさん達を相手にしているとはいえ、私とは違い身体を売ったりなんかしない。生まれついてのものか、それとも、成長していくうちに自然と身に付けたんだろう話術と媚を売って、大金を落として貰っている。
見た目も、華やかで綺麗──
ああいうのは、大山さんみたいな人が向いているんだろうな。
施設出身で、地味でカースト下位の無口な女となんて、お金を払ってまで話をしたいなんて思わないだろうし。
突然襲ってくる不安。
感じる格差。
目立たないように生きてきたせいで、目立たない生き方しかできない。
だから多分、これから先も私には無縁な世界──
パン売り場に移り、腰を落として下段の商品を一点一点確認する。期限が近い商品に割引シールを貼っていると、背後から覆い被さるようにして気配が迫り、顔の横からスッと手が現れた。
「……!」
驚いて振り返れば、すぐそこにはサラリーマンのおじさんが。
カサッ……
その商品を奪うように取りながら屈んだ膝を膝を伸ばし、チラッと私の顔を見ると、特に気にも止めず立ち去っていく。
「……」
……気持ち、悪い……
厭らしい。
さっき、おじさんが商品を取る時、髪を束ねて剥き出しになっていた首筋と項辺りに、おじさんの吐息が掛かった。
……気持ち悪い。
別に狭い所じゃないし、真横に来て取ればいい事なのに……
耳に残る、おじさんの吐息。
堪らず首元を片手で覆ってゆっくりと拭う。
はぁ、はぁ……
『……ほら、果穂』
『金、欲しいんだろ……』
「──!!」
突然襲う、忌まわしい過去。
暗闇から顔を出し、私をそこに引き摺り堕とそうとする。
……いや……
寒気が走り、指先が痺れ、身体が小刻みに震えて止まらない。
違う……あれはアイツじゃない。
違う、違う、違う。
腕を交差させ自身の二の腕を掴んでじっと耐える。
「……」
もう、何度も援交したのに。
何で、このタイミングで……思い出したりなんか……
じわっと涙が滲み、視界が歪む。
何度も大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせると、ぐいっと手の甲でそれを拭う。
「──ありがとう、ございました」
深夜11時過ぎ。
金銭の授受を終えて軽く頭を下げる。
立ちっぱなしでむくんだ足。何だか今日は、身体がだるくて疲れやすいかも。
そんな事をぼんやりと思いながら、レジに客が捌けると急いで商品チェックに戻る。
こんなバイト、いつまで続けるんだろう。
欠員の穴埋めをして、店長よりも長い時間働いて──それでも。一ヶ月のバイト代は学費やら家賃やら生活費やらに消え、手元に残るのはほんの僅か。
……なに、してるんだろう。
祐輔くんと、長い時間一緒にいられるのは、お金を沢山落とすお金持ちだけ。
「……」
ふと、ホストクラブのトイレでの出来事が、頭を過る。
キャバ嬢──華やかな世界。中年のおじさん達を相手にしているとはいえ、私とは違い身体を売ったりなんかしない。生まれついてのものか、それとも、成長していくうちに自然と身に付けたんだろう話術と媚を売って、大金を落として貰っている。
見た目も、華やかで綺麗──
ああいうのは、大山さんみたいな人が向いているんだろうな。
施設出身で、地味でカースト下位の無口な女となんて、お金を払ってまで話をしたいなんて思わないだろうし。
突然襲ってくる不安。
感じる格差。
目立たないように生きてきたせいで、目立たない生き方しかできない。
だから多分、これから先も私には無縁な世界──
パン売り場に移り、腰を落として下段の商品を一点一点確認する。期限が近い商品に割引シールを貼っていると、背後から覆い被さるようにして気配が迫り、顔の横からスッと手が現れた。
「……!」
驚いて振り返れば、すぐそこにはサラリーマンのおじさんが。
カサッ……
その商品を奪うように取りながら屈んだ膝を膝を伸ばし、チラッと私の顔を見ると、特に気にも止めず立ち去っていく。
「……」
……気持ち、悪い……
厭らしい。
さっき、おじさんが商品を取る時、髪を束ねて剥き出しになっていた首筋と項辺りに、おじさんの吐息が掛かった。
……気持ち悪い。
別に狭い所じゃないし、真横に来て取ればいい事なのに……
耳に残る、おじさんの吐息。
堪らず首元を片手で覆ってゆっくりと拭う。
はぁ、はぁ……
『……ほら、果穂』
『金、欲しいんだろ……』
「──!!」
突然襲う、忌まわしい過去。
暗闇から顔を出し、私をそこに引き摺り堕とそうとする。
……いや……
寒気が走り、指先が痺れ、身体が小刻みに震えて止まらない。
違う……あれはアイツじゃない。
違う、違う、違う。
腕を交差させ自身の二の腕を掴んでじっと耐える。
「……」
もう、何度も援交したのに。
何で、このタイミングで……思い出したりなんか……
じわっと涙が滲み、視界が歪む。
何度も大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせると、ぐいっと手の甲でそれを拭う。
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