私を抱いて…離さないで

真田晃

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第二章 人と、金と…

55.俺の彼女

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* * *


「……おはよう、果穂」

昼休み。
綺麗系の女性達を侍らせていた安藤先輩に、カフェテラスですれ違い様声を掛けられる。

「……!」

案の定。取り巻き達が、一斉に私を見る。

「この前休んだ講義だけど。出席した後輩がノートコピらせてくれたから。後で、取りに来て!」
「……」

向けられた視線が、みるみる鋭く尖っていく。
こういうのが、堪らなく嫌。
私は、先輩を好きでも何でもないのに。勝手に嫌悪感を抱かれて、勝手に巻き込まれて……迷惑。
でも、それ以上に。どうして先輩がここまで構うのか。その真意もよく解らない。
まさかとは思うけど。私が簡単に靡かないから、狩猟本能が働いて……って。
そんな訳ないよね。



適当なテーブルを見つけ、自販機で買ったばかりの紅茶を飲む。
自然と出る、細い溜め息。携帯を取り出し、何気なく出会い系サイトを開く。

「……」

プロフィールの顔写真は二の次に、提示された金額のみをチェックする。

……祐輔くんは、どんな気持ちで枕をしているんだろう。
売り上げを伸ばす為の行為とはいえ、抱きたくもない相手を抱くんだから……私みたいにじっと我慢すればいい、って訳にはいかないだろうし。
勿論、そこでお金のやり取りがある訳じゃない。
色々尽くして、甘い言葉を吐いて、お客を喜ばせて……それで、心を掴んで、虜にしていくのかな。
安藤先輩のように。

見せかけだけの、愛のない行為。
その先には……きっと、何にもないんだろうな……


「……あれぇ、川口さんじゃん!」

私に近付き声を掛けてきたのは、見知らぬ男性二人。
軽くて、チャラチャラした感じ。
携帯から視線を上げた私に、何処か含んだような笑みを浮かべている。

「丁度良かった。俺ら、頼みたい事があるんだけどさぁ……」
「AV、出てみない?」

いきなりの不躾な要求に、一瞬眉間に皺が寄る。
訝しげな視線を送りながら席を立とうとすれば、私の二の腕を掴み、耳元にスッと男が唇が近付き──


「……この前、オッサンとラブホ入ったっしょ?」

「──!」


思いもよらない台詞に、息が止まる。
その反応が面白かったのか。もう一人がニタついた顔で私を見下ろす。

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