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第二章 人と、金と…
53.
しおりを挟むどうして祐輔くんは、ホストになろうと思ったんだろう……
祐輔くんが戻ってくるのを待たず、ホストクラブを後にする。
繁華街に吹く風は、ネオンと車と人の多さのせいか、少し生温かくて濁っている。
汚れた空気を吸っていれば、内側から侵蝕されていき……そのうち汚れていく。
それは、私も同じ。
私の中には、既に黒くて嫌な感情が巣くっている。……多分、施設で過ごしていた時から。ずっと。
「──!」
突然震える、スマホ。
もしかして、祐輔くん……?
取り出し画面を見れば、表示されていたのは……
「……もしもし」
『もしもし。果穂ちゃん?』
安藤先輩。
相変わらずの、マメさに爽やかな声。
『今、何処にいるの?』
街の喧騒。すぐ近くの店で流れている曲が、スマホを当てた耳からも入ってくる。
回線を通した音で。
『後ろ』
「……え」
『後ろ、向いてみて』
言われるまま振り返ってみれば、スマホを耳に当て、此方に手を振る安藤先輩の姿があった。
こじんまりとした、居酒屋。
一品一品書かれたメニューのビラ。店の壁に張られたそれらは、寄れたり薄茶色く変色し、年季が入っている。
座敷席は、懐かしい畳。テーブル席とカウンターの間には、背の低い本棚。取り揃えた漫画も、随分と古い。
カウンター奥では焼き鳥が炭火で焼かれ、その香ばしい匂いとそれなりの煙が店内に広がっていた。
何となく断れなくて、先輩の誘いに乗って食事をする事になったけど……
まさか、こういう……ディープな店に入るなんて、思いもよらなかった。
「ここの焼き鳥、結構美味いんだよね」
たれももの串を、先輩が器用に頬張る。
何となく……勝手なイメージだけど。もっとお洒落な店にしか、行かない人なんだと思ってた。
「……」
でも、そっか。
私は大山さんみたいに、可愛くもお洒落でもないから、そんな気取った所に行かなくてもいい……って事だよね。
たれももの串を取り、静かに一口頬張る。
「──!」
……美味しい。
「どう?」
隣に座る先輩がカウンターに頬杖をつき、私の顔を嬉しそうに覗き込む。
その笑顔は爽やかながら、何処か得意気で。……困る。
こんな、無邪気で子供っぽい表情の先輩……初めて見たかも……
「美味しいでしょ」
「………はい」
とうしよう……
……よく解らない。
何か、胸の奥に溜め込んでいたものが、一気に込み上げてきて……涙が出そうになるのを必死で堪える。
「遠慮しないで、沢山食べなよ」
私の反応を確認した先輩が、次の串に手を伸ばし、店内に貼られたメニュー表を見上げた。
……どうして。
誰か傍にいて欲しい時に、現れるの?
どうして。
そんなに私に、構ったり……するの……?
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