私を抱いて…離さないで

真田晃

文字の大きさ
上 下
46 / 101
第二章 人と、金と…

46.

しおりを挟む
ピンポーン

チャイムの音で目が覚める。
いつの間に、眠ってしまったんだろう……
折り返し電話して、ちゃんと断ろうと思っていたのに。

こめかみを押さえながら立ち上がり、ふらふらしながら玄関へと向かう。


「……果穂ちゃん」

開けたドアの向こうにいる、安藤先輩。
走って来たのか。息が少しだけ荒い。

「……せんぱ……」
「熱は──?」
「……え……」
「ごめん。……やっぱり昨日、部屋まで送れば良かったな」
「……」

普段余裕のある先輩が、何時になく狼狽えている。
別に、先輩が責任感じる事なんかないのに……

「……これ」

後頭部に手をやった先輩が、持っていたコンビニ袋を差し出す。

「何がいいか解らなくて。
……とりあえず、俺が風邪引いた時に欲しいものを、適当に買ってきたから」
「……え」

受け取った袋を広げて見れば、あればいいなと思うものばかり。
レトルトのお粥、ポカリ、冷えピタ、風邪用の栄養ドリンク剤──

……どう、して。
どうしてここまで……

ゾクッ、と体が震える。

「俺も独り暮らししてて。風邪引くと、結構辛いの知ってるからさ。……あ、何か欲しいものとかあったら、遠慮なく言えよな」
「……」

──こんな事、して貰うような間柄じゃない。
なのに、何で……
何で……
……おかしいよ、先輩……

「……あ、じゃあ。これ渡したかっただけだから」
「………」
「風邪、早く直せよ」

爽やかな笑顔を残し、先輩が去っていく。
きっと、親切心からしてくれたんだろう。……けど……

「……」

受け取ったビニール袋をギュッと握る。
パーソナルスペースに、スッと踏み込んでくる、この感じ。
大山さんと似ているけど、違う。
……何か、嫌。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

美人な姉と『じゃない方』の私

LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。 そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。 みんな姉を好きになる… どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…? 私なんか、姉には遠く及ばない…

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

社長から逃げろっ

鳴宮鶉子
恋愛
社長から逃げろっ

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

処理中です...