私を抱いて…離さないで

真田晃

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第二章 人と、金と…

45.風邪

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* * *


39度の高熱。
あれだけ雨に打たれれば、当然と言えば当然……か。

当然大学は休み。一日中布団の中で過ごす。
大概の事は、一人で良かったと思うのに。体調を崩した時だけは……淋しさを感じる。
音のない部屋。
微かに聞こえる、秒針を刻む音。

カチカチカチカチ……

まるで、心臓の鼓動のようで。
施設にいた頃──淋しさを紛らわせようと胎児のように丸くなり、枕をぎゅっと抱いてその音を聞いていた。

「……」

あの頃のように、枕を抱く。
蕎麦殻のそれは、あの時の様な柔らかさなんてなくて。少しでも体を動かせば、耳元でザザザァ……と激しい雨のような音がした。


──祐輔くん……

祐輔くんにとって私は、特別でも何でもない。
数いる客の一人。……しかも、お金を落とさない、迷惑な客。

想定していた金額よりも、もっと貢がないと。
……そうしなければ、認めて貰えない。
祐輔くんにも。祐輔くんの先輩にも。


プルル……

テーブルに置かれた携帯が、音を鳴らし震えながら動く。
鉛の様に重い体を起こし、額に手を当て、テーブル前へと這うようにして移動する。

「……はい」

電話に出てから、相手を確認していなかった事に気付く。
……もし、祐輔くんだったら……
そんな不安と緊張が走り、頭がクラクラとした。

『果穂ちゃん?……安藤だけど』
「………あ、」

先輩──
ホッと胸を撫で下ろしたものの、何処か残念な気持ちもあって。それらが複雑に絡み合う。

『大丈夫? 今日、休んだって聞いたけど』
「……え」
『風邪、引いてない?』
「……」

人恋しいせいか。
先輩の声が、いつもより優しく聞こえる。
『大丈夫です』──そう答えて、昨日の御礼も一緒に伝えて……
それで、早く電話を切ってしまえばいいのに。
……中々、それが出来ない。

『……果穂ちゃん?』
「あ、……」

……なん、で。
よく、解んない。
何でいま……涙なんか……

『今、家だよね。……今からそっち行くから。待ってて』
「──!」

すすり泣く声が、電話を介して聞こえてしまったのだろうか。
その言葉を最後に、プッと通話が切れた。

「………」

ここに、って……

──そっか。
先輩、ここの場所、知ってるんだっけ……


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