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第二章 人と、金と…
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しおりを挟む「……果穂ちゃん」
仄暗い頭上から、微かに私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
それに引き寄せられて瞼を持ち上げれば、心配そうな顔をした先輩と間近で目が合った。
「よかった。……確か、この辺りに住んでいるんだよね」
「──え、!」
パッと目を見開ければ、先輩の肩を借りている事に気付き、慌てて退ける。
その様子が可笑しかったのか。先輩が目を細めて笑った。
「……え……」
ここ……タクシーの中。
辺りを見回せば、先輩の言う通り私の住むアパート近辺を走っている。
「ごめん。正確な場所までは解んなくて」
「……」
「運転手さんに、案内して貰えると助かるんだけど」
「………あ、はい……」
……もしかして先輩……
私を抱えながら、タクシーを拾ってくれたの……?
その光景を想像すると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
スクランブル交差点の時といい、今日の事といい……どうして先輩は、私なんかをこんなに構うんだろう……
タクシーの運転手に住所を告げ、ふと先輩に視線を向ける。
その視界に映る先輩の肩が濡れていて……私の濡れた身体や髪のせいだと気付く。
「……」
タクシーが、それなりに年季の入ったアパート前に停まる。
カチ、カチ、カチ、……と規則的に点滅するハザードランプ。
濡れた道路に塗り広がる、鮮やかな橙色。
雨足はだいぶ落ち着いたものの、まだしとしとと雨が降り続いている。
タクシーの後部ドアが開き、両足を下ろす。と、先輩がビニール傘を広げてくれた。
「送るよ」
「……え、あ……いえ……」
ここで一緒に降りようとする先輩を、慌てて止める。
これ以上は申し訳無い気持ちもあるけれど……このままだと、部屋に上げる流れになりそうで……
「すぐ、そこなので……」
「………そっか」
「……」
先輩が、心配そうに私の顔を下から覗き込む。
「じゃあこれ、持ってっていいから」
手渡された傘。
咄嗟に受け取ってしまったけれど……
「……あの、先輩……」
「風邪引くなよ」
タクシーに乗り込み、パタンと閉まるドアの向こうから、先輩が笑顔で手を振る。
ここまで送ってくれた事も、タクシー代の事も、駅で助けてくれた事も……
まだ全部、お礼を言えてない、のに……
「……」
ポッカリと空いたその心に、先輩の優しさが沁み広がった。
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