34 / 96
第一章 初恋の人
34.
しおりを挟む
* * *
出会い系サイトのプロフィール写真を、口紅を引いた時の写真に変えた。
祐輔くんが、可愛いって言ってくれたから。
……だけど。期待してたメッセの数は、そこまで伸びなかった。
それでも、いい。
稼げるなら、それで構わない。
何人かと連絡を取り、何度か身体を売った。
でももう……生ではしない。
胸には触れない条件も、そのまま。
条件に合わなかったり、実際に会って嫌な感じがする相手には、その場で遠慮無くお断りをするようにした。
「川口さん。来月のシフトだけど……」
バックヤードに戻ると、事務机の前で唸っている店長に呼び止められた。
「空いてる所、出られない?」
「……え」
シフト表を持って、店長が近付く。
渡されたそれに目を落とせば、パラパラと目立つ、空白。
「もう参ったよ。……最近入った新人いたでしょ? 昨日突然、学校にバレたから辞めるって連絡が入ってさぁ」
「……」
のんびりとそう言いながら、店長が申し訳なさそうに眉尻を下げる。ハハハ…と乾いた笑い声。ポリポリと掻く襟足。
焦っているようで、そんな感じが一切伝わってこない。
多分店長は、言えば私が全部入れてくれるものだと高をくくっているんだろう。実際、この新人が来るまでは、ほぼ全て私が入っていたのだから。
「……全部は、無理です」
「ええっ、」
店長の面食らった顔つき。
案の定、今までのように断らないと思っていたらしい。
確かに。断ったら迷惑を掛けてしまうだろうなって気持ちはある。それ位の責任感はあるつもり。
だけどその責任を負うのは、店長の仕事であって、私じゃない。
「そこを何とか。頼むよ!」
「……すみません。あまり増やすと、学業に影響が出てしまいますので」
両手を合わせ、下手に出る店長。
今までの私だったら、断れずに引き受けてた。先に色んな理由をあれこれつけて。私の中で納得させて。
その方が楽だったし。物事がスムーズに運ぶし。何よりも、罪悪感を感じなくて済むし。
それに……相手を失望させて、弾かれるのが怖かったから。
「……そっか。そうだよなぁ……」
参ったな……。店長の口から、そんな呟きが漏れる。
先程とは打って変わり、眉間に深い皺を刻み、頭頂部をガシガシと掻きながら深刻な溜め息を漏らす。
「出られる所、書き込んでおいて」
シフト表を私に預けたまま、店長が離れる。そして胸ポケットから携帯を取り出し、耳に当てながら外へと出て行ってしまった。
「……」
罪悪感が募る。
胸の中が、ざわざわする。
それでも。こうして断れたのは、援交で割りきった断り方をする経験を培ってきたお陰かも。
そう思ったら、色を売る事が、なにもそこまで悪い事ばかりじゃない──気がした。
出会い系サイトのプロフィール写真を、口紅を引いた時の写真に変えた。
祐輔くんが、可愛いって言ってくれたから。
……だけど。期待してたメッセの数は、そこまで伸びなかった。
それでも、いい。
稼げるなら、それで構わない。
何人かと連絡を取り、何度か身体を売った。
でももう……生ではしない。
胸には触れない条件も、そのまま。
条件に合わなかったり、実際に会って嫌な感じがする相手には、その場で遠慮無くお断りをするようにした。
「川口さん。来月のシフトだけど……」
バックヤードに戻ると、事務机の前で唸っている店長に呼び止められた。
「空いてる所、出られない?」
「……え」
シフト表を持って、店長が近付く。
渡されたそれに目を落とせば、パラパラと目立つ、空白。
「もう参ったよ。……最近入った新人いたでしょ? 昨日突然、学校にバレたから辞めるって連絡が入ってさぁ」
「……」
のんびりとそう言いながら、店長が申し訳なさそうに眉尻を下げる。ハハハ…と乾いた笑い声。ポリポリと掻く襟足。
焦っているようで、そんな感じが一切伝わってこない。
多分店長は、言えば私が全部入れてくれるものだと高をくくっているんだろう。実際、この新人が来るまでは、ほぼ全て私が入っていたのだから。
「……全部は、無理です」
「ええっ、」
店長の面食らった顔つき。
案の定、今までのように断らないと思っていたらしい。
確かに。断ったら迷惑を掛けてしまうだろうなって気持ちはある。それ位の責任感はあるつもり。
だけどその責任を負うのは、店長の仕事であって、私じゃない。
「そこを何とか。頼むよ!」
「……すみません。あまり増やすと、学業に影響が出てしまいますので」
両手を合わせ、下手に出る店長。
今までの私だったら、断れずに引き受けてた。先に色んな理由をあれこれつけて。私の中で納得させて。
その方が楽だったし。物事がスムーズに運ぶし。何よりも、罪悪感を感じなくて済むし。
それに……相手を失望させて、弾かれるのが怖かったから。
「……そっか。そうだよなぁ……」
参ったな……。店長の口から、そんな呟きが漏れる。
先程とは打って変わり、眉間に深い皺を刻み、頭頂部をガシガシと掻きながら深刻な溜め息を漏らす。
「出られる所、書き込んでおいて」
シフト表を私に預けたまま、店長が離れる。そして胸ポケットから携帯を取り出し、耳に当てながら外へと出て行ってしまった。
「……」
罪悪感が募る。
胸の中が、ざわざわする。
それでも。こうして断れたのは、援交で割りきった断り方をする経験を培ってきたお陰かも。
そう思ったら、色を売る事が、なにもそこまで悪い事ばかりじゃない──気がした。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる