私を抱いて…離さないで

真田晃

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第一章 初恋の人

34.

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出会い系サイトのプロフィール写真を、口紅を引いた時の写真に変えた。
祐輔くんが、可愛いって言ってくれたから。
……だけど。期待してたメッセの数は、そこまで伸びなかった。

それでも、いい。
稼げるなら、それで構わない。

何人かと連絡を取り、何度か身体を売った。
でももう……生ではしない。
胸には触れない条件も、そのまま。
条件に合わなかったり、実際に会って嫌な感じがする相手には、その場で遠慮無くお断りをするようにした。





「川口さん。来月のシフトだけど……」

バックヤードに戻ると、事務机の前で唸っている店長に呼び止められた。

「空いてる所、出られない?」
「……え」

シフト表を持って、店長が近付く。
渡されたそれに目を落とせば、パラパラと目立つ、空白。

「もう参ったよ。……最近入った新人いたでしょ? 昨日突然、学校にバレたから辞めるって連絡が入ってさぁ」
「……」

のんびりとそう言いながら、店長が申し訳なさそうに眉尻を下げる。ハハハ…と乾いた笑い声。ポリポリと掻く襟足。
焦っているようで、そんな感じが一切伝わってこない。
多分店長は、言えば私が全部入れてくれるものだと高をくくっているんだろう。実際、この新人が来るまでは、ほぼ全て私が入っていたのだから。

「……全部は、無理です」
「ええっ、」

店長の面食らった顔つき。
案の定、今までのように断らないと思っていたらしい。
確かに。断ったら迷惑を掛けてしまうだろうなって気持ちはある。それ位の責任感はあるつもり。
だけどその責任を負うのは、店長の仕事であって、私じゃない。

「そこを何とか。頼むよ!」
「……すみません。あまり増やすと、学業に影響が出てしまいますので」

両手を合わせ、下手に出る店長。
今までの私だったら、断れずに引き受けてた。先に色んな理由をあれこれつけて。私の中で納得させて。
その方が楽だったし。物事がスムーズに運ぶし。何よりも、罪悪感を感じなくて済むし。
それに……相手を失望させて、弾かれるのが怖かったから。

「……そっか。そうだよなぁ……」

参ったな……。店長の口から、そんな呟きが漏れる。
先程とは打って変わり、眉間に深い皺を刻み、頭頂部をガシガシと掻きながら深刻な溜め息を漏らす。

「出られる所、書き込んでおいて」

シフト表を私に預けたまま、店長が離れる。そして胸ポケットから携帯を取り出し、耳に当てながら外へと出て行ってしまった。

「……」

罪悪感が募る。
胸の中が、ざわざわする。
それでも。こうして断れたのは、援交で割りきった断り方をする経験を培ってきたお陰かも。
そう思ったら、色を売る事が、なにもそこまで悪い事ばかりじゃない──気がした。




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