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第一章 初恋の人
33.
しおりを挟む光陰矢のごとし、とはよく言うけれど。
本当に、時が経つのは早く。
途中、ホスト全員がステージに立ち、猫に因んだちょっとしたパフォーマンス・ショーが行われれば、色んな垣根を越え、フロア全体が一体となって凄く盛り上がり……本当に楽しかった。
「……今日は来てくれて、ありがと」
エレベーター前まで見送ってくれた祐輔くんが、笑顔を見せる。
「ううん。……私の方こそ、あんまりお金落とせなくて……」
「いや、そこは全然気にしないで。来てくれた果穂ちゃんが笑顔を見せてくれたら、それだけで充分だからさ」
ハハ、と屈託のない笑顔を見せながら、祐輔くんがサラッと言う。
……でも、そんな筈ない。
祐輔くんは優しいから。私に気遣かわせないように、そう言ってくれただけ……
もし、祐輔くんでも私でも、どちら一方が未成年じゃなかったら……高いお酒のひとつでも頼めて、少しは貢献できたのに。
「……じゃあ、さ。
俺の誕生日、お祝いに来て」
そんなに浮かない顔をしていたんだろうか。真っ直ぐに向けられた瞳が私の心情を読み取ると、申し訳無さそうに眉尻を下げる。
「来週の……24日。俺、二十歳になるからさ」
「……え」
「果穂ちゃんにお祝いして貰えたら、凄く嬉しい」
「………」
動揺を隠せないまま、目を伏せる。
もう、援交は止めるって……決めたのに。
その決意はグラグラと大きく揺れ、脆くも崩れ落ちていく。
そして新たに築かれたのは、別の決意──祐輔くんの為に続けるっていう、強い決意。
「………うん、」
顔を伏せたまま小さく頷けば、祐輔くんの手が、私の頭を優しくぽんぽんした。
たった、それだけ。
なのに………凄く嬉しい。
チン、と無情にもベルが鳴り、エレベーターのドアが開く。
片手でドアを押さえ、乗り込んだ私に笑顔で手を振る祐輔くんが、閉まる寸前まで手を振り、私を優しく見つめてくれる。
この別れ際の瞬間は……堪らなく淋しい。
でも……ドアひとつ隔てた向こうに、まだ笑顔の祐輔くんが此方を向いて立っているようで。
傷つけられた心の奥が、じんわりと柔らかく、癒されていくような気がした。
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