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第一章 初恋の人
22.
しおりを挟むバッグを肩に掛け、館内を出る。
次の講義は出たかったけど、欠席しても今の所単位の方は大丈夫。
「……あ、川口さぁん!」
相変わらず清楚な身形をした大山が、私に笑顔で手を振ってくる。
時間潰しに、友達とカフェテラスでお茶でもしていたんだろうか。
「次の講義、出るんだよねぇ?」
「………え、」
相変わらずの、猫なで声。
少しだけ上目遣いをし、大山が両手を顔の前で合わせる。
「良かったぁ……! じゃあ、代返お願いねぇ!」
私の話もろくに聞かず、甘えた声で強引に押し切る。拒否権など寸分も与えずに。
そして蝶が舞うようにひらひらと手を振り、スッと立ち去っていく。媚びたような笑顔を残して。
大山の姿を目で追っていけば、その先には彼女を待つ同じサークルメンバーが数人。キラキラと輝く、カースト上位の人達ばかり。
「……」
その中に、イケメンオーラを放つ安藤先輩の姿が。
他メンバーと談笑していた彼が、此方に顔を向ける。駆け寄った大山さんに気付いたんだろう。けど、その瞳は大山さんを通り越して、真っ直ぐ私へと向けられた。
「……!」
視線と視線が、ぶつかる。
瞬間──スクランブル交差点で助けられた記憶が蘇った。
頭をぽんぽんとされた時の、あの感触や擽ったさまで……
先輩が、胸の前で軽く手を振る。と、その手を両手で包んで引き寄せた大山が、恐らく上目遣いをしながら先輩に話し掛ける。
ああ……
何となく、解った。
……多分、わざと私を外したんだ。
貴女はこっち側に来ないでね。──まるで、見えない境界線を張られたみたいに。
別に、どうだっていい。
私には関係ない。
……そう言い聞かせて、心が抉られそうになるのを拒む。
立ち位置なら解ってる。あの集団の中に、私の居場所がない事くらい。
……都合のいい時だけ声を掛けられる事くらい。
くるりと背を向け、講堂へと引き返す。
……馬鹿みたい。言う事なんて聞かなければいいのに。
そう思うものの、染み付いた性なのか、逆らえなくて。
軽く溜め息をつき、バックからスマホを取り出す。
〈ごめんなさい。急用で行けなくなってしまいました〉
そう打ち込み、送信した。
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