私を抱いて…離さないで

真田晃

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第一章 初恋の人

10.

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「……お疲れ~」

店のバックヤードに入れば、バイト上がりの男子高校生が、私にタメ語で棒読みの挨拶をする。既に帰り支度を済ませた彼が出て行くと、それと入れ違いに店長が入ってくる。

「ああ、川口さん。……悪いんだけど、明日の夜入れる?」
「……え」

突然のお願い。
バイトが増えれば、それだけ収入は増える。

「……」

でも、たかが知れてる。
日数を少し増やした所で、祐輔くんに貢げる程の額には達さない。

「………はい」
「良かった。……じゃあ、よろしく頼むよ」

店長が私の肩をポンと叩く。
事務机に置かれたシフト表を広げ、修正する店長の姿をぼんやりと視野に映しながら、足元に広がる虚しさを感じていた。



陳列された商品チェックをしながら、時々レジに入る。
24時間営業のディスカウントショップ。その深夜帯は静かで、まばらながらも訪れる客はいつもの顔ぶれが殆ど。

残業帰りなんだろう、スーツ姿のサラリーマン。三十代位。多分、初めて見る人。高身長で割と整った顔立ちながら、それを打ち消してしまう程目が虚ろで。全身から疲労感オーラを漂わせている。
発泡酒。割引シールの貼られた唐揚げパック。いなりと太巻きの入った助六寿司をそれぞれ買物カゴに入れ、サッとレジへ向かう。
それに気付いた私も、慌ててレジへと向かった。

「お待たせしました」
「……」

独身なんだろうか。
さり気なく左手を見れば、薬指にはマリッジリング。

……それじゃあ、単身赴任とか、夫婦関係が冷え切ってるとか……

頭の中で妄想を繰り広げつつ、涼しい顔でレジを打つ。


「……えー、ホテル代別って、私ちゃんと言ったよぉ?!」

店内に響く、甘えつくような大きな女声。
それに反応し、既婚サラリーマンが尻目で見る。つられて私も視線を向ければ、レジに並んだのは──親子ほど年の離れた男女。

「それにぃ、ドリンクとかここで買うの、なぁんかケチ臭いっ」
「……わかった。わかったから……」

痩せ型薄毛の乾いたおじさんが、あたふたと慌てふためく。既婚サラリーマンと私の姿をチラチラと気にしながら、何とか高校生ぐらいの年頃の女性を宥めていた。


……援交……?
それとも、一回きりの割り切った売春……?

既婚サラリーマンが再び、軽蔑した目を送る。

「……」


──そっか。
手っ取り早く稼ぐなら、やっぱりそういう事しか……ないよね……

表情を保ちながら、淡々と作業をこなす。

……この後二人は、裏手にあるラブホテルへと向かうんだろう。

ちょっとの間我慢すれば、……恐らく私の四、五日分のバイト代が簡単に手に入るんだろうな……


「ありがとうございました」

会計を済ませ、商品を入れたビニール袋を渡せば、既婚サラリーマンが充血した目で援交カップルを睨み、「……チッ」と小さく舌打ちした。





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