私を抱いて…離さないで

第一章 初恋の人

8.

笑えないよ。

……ただ施設の子ってだけで。
同じ人間なのに、下等動物のように見られて。
同じ社会に生きてたらいけない、みたいに扱われて……


「……え、あ……えぇ、っ……！」

私の様子に美麗の表情が崩れ、あたふたと慌てふためく。
目を見開いたまま美麗の様子を見ていれば、目の前にスッと白いハンカチが差し出された。

「………え」

状況が良く解らなくて。もう一度美麗に視線を戻した後、無意識に自身の下瞼に触れる。

「……あ、」

涙に濡れる指先。

「ごめんね。変な話聞かせちゃって」
「……」

変な話、なんかじゃない。
──違う。違うよ、祐輔くん……

既に出来た涙の通り道を、新たな涙が伝う。


『お前等は、保健所にいる捨て犬と同じだ！』


……悔しくて。でもどうする事もできなくて。
私は未だに、自分を卑下して生きてる。
『施設の子』としての生き方を植え付けられたまま……大きくなってしまった………



ハンカチを受け取り、目元に当てる。
瞬間、ふわりと爽やかな匂いが鼻孔の奥に広がる。

……祐輔くんの匂い……
懐かしい……匂い……

胸の奥が柔らかく締め付けられ……
目を閉じたまま深呼吸をし、その匂いを肺胞全てに送り込む。


……多分、祐輔くんは……覚えていない。
私の事なんて……
私は施設の中でも目立たず、存在感の無い子供だったから。


「……大丈夫？　ごめんね……」

美麗が、心配そうに私を下から覗き込む。
その瞳が、真っ直ぐ綺麗で……
あの時のままで……

「……いえ。あの……」
「ん……？」


私は、何を言おうとしているんだろう。

……私、何を……


「……次来た時、指名して……いいですか？」

予想外の台詞だったんだろう。
美麗……祐輔くんが、驚いた顔を一瞬だけ見せた。