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第一章 初恋の人
5.
しおりを挟むパッパーッ
遠くで響くクラクション。
足音。音楽。道行く人々や客引きの声。
喧騒入り混じる夜のネオン街を、大山と並んで歩く。
膨らんだ胸や括れた腰のラインの目立つ、黒のワンショルダーワンピース。巻き髪のハーフアップ。濃いめのメイク。……と、大人びた格好をしている大山。合コンの時は決まって、白系統のふんわりとした、柔らかな印象のワンピースに、愛されメイクを施すというのに。
「……あ、ここだよ!」
大山が上空を指差す。
顔を上げその先を見れば、五階建てのビルの三階辺りに掲げられていたのは、一際輝く煌びやかな看板。
『雅-Miyabi-』
まるで化粧品の看板のように、格好つけたポーズを決める男性。その下部に描かれた、流れる筆記体。
砕いたダイヤモンドを散りばめたようにキラキラと煌めき、どこからどう見てもホストクラブの看板だと解る。
「………」
合コン、じゃなかったの……?
改めて大山の服装に目をやる。そして、私。
大きめの白シャツに、デニムのマキシ丈スカート。髪は後ろに簡単に纏めただけだし、おまけにすっぴん。
「……私……」
「ねぇ、入ろ!」
大山が私の腕に絡み付く。
瞬間。ふわりと香る、熟したフルーツのような甘い香り。わざとなのか、彼女の胸が私の腕に当てられる。
……女の私に、こんな事されても……
可愛いらしさの中に媚びた顔を覗かせる彼女を、軽蔑しながらも羨ましいと感じる。
私とは全然違う。生まれも育ちも。
顔も。性格も。
そのあざと可愛さも。
「大丈夫だよぉ。ジャージで来るっていう人もいるみたいだし。……あ、料金もね、初回なら大して高くないよ。寧ろ、全然安いから」
金銭感覚だって、違う。
例えそれが一万円だったとしても、私には、決して安いとは思えない。
「それにぃ、……男の子といっぱーい喋れるよ!」
「……」
「合コンとは違って、楽しいよぉ。
みんな優しくて、会話もリードしてくれるし、大丈夫。……だから、ね?」
「………でも」
渋る私の正面に回り、両手を摑んだ大山が、上目遣いながらも真剣な目を向ける。
「何事も経験、……でしょ?」
「……」
──経験。
もし、貴女と同じ経験をすれば、私も少しは貴女のようになれるんだろうか。
周りから、普通の女の子に見られるんだろうか──
「……うん」
「じゃあ、行こっ!」
パアァ、と華が咲いたような明るい笑顔を見せ、その手を嬉しそうに引っ張る。
「……」
どうして──引き立て役以外の理由が、見つかりそうにない。
大山に引っ張られるまま、一生行く事はないと思っていたホストクラブに、私は初めて足を踏み入れた。
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