28 / 80
28.
しおりを挟む×××
「……それでね」
夕食が終わり、台所で洗い物をする若葉の隣に立って、水切り籠から重ねられた茶碗を拾う。
「達哉は、優しくて格好良いから。他校の女の子達からも、凄くモテてね。ファンクラブまであったのよ」
「……」
ザーッ……カチャン、
この時間、若葉は決まって僕の父──達哉との思い出話をする。僕には思い出がないから。そのぽっかりとあいた穴に其れ等を埋め込む。
もしも、父が生きていたとしたら──
優しい表情を浮かべる父。穏やかに微笑む母。天気の良い長閑な公園のベンチに並んで座り、まだ幼いアゲハと僕が燥ぎながら追いかけっこをする様子を微笑ましく眺める。……そんな、絵に描いたような平和な家族だったんだろうか。
それとも。母のヒステリックな本質は変わらず。父が家に居ない時は、僕だけを叩いたりしたんだろうか。
そんな不毛な想像をしながら、黙々と洗い終わった食器を布巾で拭く。
「でもね。その規律が、ちょっと可笑しくて。
達哉は皆のアイドルだから……ファンクラブ会員の全員で守り、平等に接し、共有するもの、なんだって。
勿論、抜け駆けは禁止。決して達哉の家族には迷惑を掛けない事。もし達哉と対話をした場合は、その内容を全員に報告。そして、達哉に近付く女は、例え非会員であっても陰湿な制裁を加えていたみたい」
「……」
「でも、ある日──其れ等の規律を破って、僕を踏み台にしようと近付いてきた会員がいたの」
……え……
俄に信じられない。
こんな綺麗な顔立ちをしていて、胸の中を掻き立てるような甘い匂いを放つ若葉でさえ……踏み台にされてしまうなんて。
「丁度、僕が帰宅した時かな。ファンクラブ会員の子達が家の前にズラッと並んで、達哉の居る二階の窓を見上げながら何やら騒がしくしてたのよ。その中の一人が僕に気付いて、媚びるような顔つきで僕に話し掛けてきたの。
その様子を見た会長が、規律違反だって注意したんだけどね。その内、激しい口論になって。……ふふ。二階の窓から、その醜い争いが見えてるなんて思いもしないで」
少しだけ眼を細め、口角を僅かに持ち上げた若葉が微笑む。
「そしたら母が、凄い剣幕で飛び出して。達哉の勉強の邪魔よ!って怒鳴りつけて。彼女達を追い払ったの」
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる