白くて細い、項

真田晃

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†††


小さい頃から、五つ歳上の純くんが好きだった。
モデルとか、イケメン俳優みたいに格好良くて。華やかなオーラがあって。
それでいて、優しくて。
幼い僕の目線に合わせて、よく一緒に遊んでくれた。


「……どう?」
「……」
「気持ち、いい?」

小学4年生の頃、遊びに来た純くんに……初めてキスをされた。
僕の部屋で。二人きりの時に。

「……うん……」
「じゃあ、……またしようね」

そう言って長い人差し指を立て、少しだけ尖らせた唇の前に構える。

「でも……みんなには、内緒だよ」

真っ直ぐ見つめて僕を包み込む、純くんの優しい眼差し。
これが、特別な事なんだと思ったら……それだけで嬉しくて、堪らなかった。


だけど……

純くんを好きだった純粋な気持ちは、あの日を境に変わってしまった。
無色透明の綺麗な水に、墨汁を一滴落としてしまったような、後ろめたさ。

……もっと、触れたい。

純くんを思い出す度に、唇の感触が蘇り──心が震えて、身体の奥から熱いものが込み上げていく。

「……ん、ぁあっ、!」

純くんの感触や匂いを追い掛けながら……
僕は、人生で初めて自慰行為をしてしまった。





「……好きです」

中学に上がって初めての夏。
同じクラスの女子数人に呼び出され、そのうちの一人に告白をされた。
割と可愛くて、男子から人気のある子。
……だけど、全然ときめかなかった。

例え好きではなかったとしても、少しくらいドキドキしたっておかしくはないのに。

純くんに感じていたものを、全く感じない。


……何か、おかしい。


視界が揺れる中、ふと彼女達の身体のラインに目を止める。

この時期になると、男子達がそわそわする、性的なもの──ブラウスから透けて見える、ブラジャーの線。短いスカートからチラリと見える、絶対領域。髪をアップした時の、後れ毛の残る細い項。
そういったものに、僕は全く関心が無い事に気付かされた。


……おかしい……


家に帰り、逸る気持ちを抑え、兄貴の部屋へと忍び込む。
ベッド下に隠された、数冊のエロ本。
笑顔を浮かべるグラビアアイドルが、際どいビキニ姿で艶めかしいポーズをとった表紙。

……オカシイ……

雑誌を開けば、既に破られた袋とじが。
大きく揺れる視界。
躊躇いながら、徐に捲る。


「………」


感じ……なかった……


女性の半裸を見て、何も反応しない。


僕の世界が、歪んでいく。
眩暈と息苦しさが、同時に襲う。


「……」


思い返せば、反応したのは……純くんの時だけ……


……やっぱり僕は、オカシイんだ……




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