シンクロ -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る5-

真田晃

文字の大きさ
上 下
174 / 282
菊地編

174.

しおりを挟む
真木が柔和な笑顔をしてみせる。が、吉岡のような人懐っこさはなく、寧ろ不気味な印象を受けた。

この人達にとって、僕を助けるメリットなんて、ない筈──

警戒したまま真木をじっと見据えれば、ふと瞳を緩めた真木が、二度目となる軽い溜め息をつく。


「参ったね」
「……」
「お察しの通りだよ。別に俺らは、ピーチ姫を救うマリオじゃねぇ」

真木の口元が歪み、瞳に冷めた邪気が孕む。
こんな厳ついなりをしながら、今までそう感じなかった方が不自然だったと思い知る。

「……実は俺らもな、そろそろvaɪpərこの組織から抜けたいと思ってんだよ。
掛け子にしろ受け子にしろ、送迎や見張りにしろ……結局、末端クラスの俺らは、単なる捨て駒に過ぎねぇからな」

本音を吐露する真木。
据わっていた眼が尖り、迫力が増す。首元にある刺青が、更にそれを押し上げた。

「その単なる捨て駒の俺らが、ヘマしたり逃走しようもんなら、菊地さんに始末されんのがオチだ。
そこで──」

腰を少し浮かせ右手でポケットを弄った後、手にしたものをテーブルに置き、スッと滑らせながら僕の方へとそれを寄越す。


「この呪縛から解放される為に、さくらちゃんに協力して欲しいんだよ」


小さな透明のビニール袋。
その中に見えるのは、白い粉。


「菊地さんが口にする物に、少量ずつこれを混ぜて欲しい」

「………、!」


困惑する僕を、真木の尖った眼が捕らえて離さない。

鋭く凶器的な空気。逃れられない眼力。
もし、これを拒否したら───

「……もしかして、何か勘違いしてる?
菊地さんのオンナだからって、自分だけは特別だとかさ……」

口元を緩めた後、随分と冷めた笑いを漏らし、背筋を伸ばした真木が肩で大きく息を吐いた。

「さくらちゃんも同じだぜ。
どんな言葉でオンナにされたかは知らねぇけど。菊地さんにとっちゃあ、単なる性欲処理の一人。……欲望を満たす為の、肉便器に過ぎねぇ」
「……」

侮辱的な言葉に、カッとなって嫌悪感が増す。

『違う』──そう言い切って突っぱねられる程の自信は、無かった。
確かに僕は、菊地に抱かれる為にここに来たんだ。毎晩のフェラと素股は、もうすっかり日課となっている。

「……肉便器」

彼の中でヒットしたのか。プッと吹き出した愁が、ニヤニヤと厭らしく僕を見ながらボソッと呟く。

……でも。
それならわざわざ倫の店まで僕を連れてって、口説いたりするだろうか。
僕に優しくなんか、するだろうか……

「……」
「そのうちシャブ漬けにされて、廃人になった所で虫けらのように捨てられんのがオチだ」

そう言って粉の入った小さな袋の端を摑み、低い位置で宙に浮かせる。

「だったら。──その前に、こっちからやってやろうじゃないか」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

組長と俺の話

性癖詰め込みおばけ
BL
その名の通り、組長と主人公の話 え、主人公のキャラ変が激しい?誤字がある? ( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )それはホントにごめんなさい 1日1話かけたらいいな〜(他人事) 面白かったら、是非コメントをお願いします!

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

短編集

田原摩耶
BL
地雷ない人向け

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...