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菊地編

153.

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ゴリッゴリッ……


痛めつけるような律動。
腹の奥で感じる、鈍い音と感触。

これは、性処理なんかじゃない。
支配する為の、暴力行為──


……ああ、死ぬ………死ぬんだ……


竜一でもない。ハイジでもない。
今日初めて会ったこの男に。
犯されながら……死ぬ……

今まで僕は、ろくな死に方なんてしないだろうと思ってた。
竜一との幸せな時間の中にいながらも、何処か現実離れしていて……不安な影に怯えていて……これは幻想なんだ、錯覚なんだと、何度も思い直した事もあった。

だからなのか……
何だか、しっくりくる。
こんな形で命を終わらせる事に。


──そうだ。母に首を絞められた時のような、あの感覚。

やりきれないけれど、逃れようのない運命に、身を任せてる感じ……


後孔の痛みが、次第に麻痺していく。
足裏や腕の内側がビリビリと微量な電気を流されたように痺れ、指先から感覚を失っていく。


意思とは違う。快感とも違う。
よく解らない感覚───陸に上がった魚のように、身体がビクンビクンと大きく跳ねる。凄く滑稽だな、なんて思ったり。
それを上から押さえつけられ、尚も僕の体を支配しようと……男に:内臓(はら)の奥へズンッ、と楔を打ち込まれる。


頭が鉛の様に重い。
後頭部からじわ…、と冷たい感覚が広がっていく。
意識が遠退きそうになりながらも、何とか抗い、瞼を押し上げた───その時だった。


「………っ!」


──ハイ、ジ……?


涙で歪む膜の向こうに見えたのは、逆光の中で鋭く光る、邪鬼を孕んだ双眸。

既に力が入らないし、意識は殆どぶっ飛んでいたけれど……僅かな力を振り絞って、何とか左手の指を動かす。


良かっ……た……
……生きて、て……


僕の首を絞める手に触れ、その先を辿って、伸ばせるだけ手を伸ばす。
愛しさが胸の奥から込み上げ、とろりと瞳が蕩けていくのを感じた。


ごめんね、ハイジ……
……ありがとう……

僕の事……愛して、くれて……


「……おま…え、」


首に掛かる指の力が弱まる。

その刹那──バチンッ、と電球が切れた時の如く真っ白に弾け、目の前が真っ暗になる。

ドクドクと脈打つ頭痛が一瞬激しくなったのを最後に……


僕の意識が、プツリと切れた───





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