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菊地編
149.
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「……変わってんな、お前」
ベットの端に座った菊地が、サイドテーブルの灰皿に置かれた煙草を口に咥える。
「俺が怖くねぇのか?」
「……」
僕が反応せずにいれば、振り返った菊地が口から煙を吐き出す。
「……気持ち悪く、ねぇのかよ……」
先程より、少し控え目の声色。
黒目だけを動かして菊地の背中を見れば、鱗のようにびっしりと張り付いた薄茶色の瘡蓋が目立つ。
肩甲骨の下辺り……そこから脇腹にかけて、広い範囲がジュクジュクと湿潤している。
その浸出液は、当然僕の腕や身体にも付着していた。
「そういうショーバイしてる女でも、俺の身体を見た瞬間や肌に触れる瞬間ってのは、ほんの僅かでも、嫌悪感や同情が──ソイツの瞳の色、仕草、雰囲気なんかで感じ取れちまうってのによ……」
「……」
静かに煙草を吸い煙が吐き出されると、まだ半分ほど白い部分が残っている煙草が灰皿に揉み消される。
「……まぁいい。風呂行くぞ」
「……」
何も隠す事無く、菊地がさっさとバスルームへと向かう。
ベッドに手を付き、思い通りにされた身体を押し上げれば……鉛のように重くて、溜め息がひとつ漏れる。
菊地は、アトピー性皮膚炎だった。
治療を受けているのかは解らない。
まだ夜は肌寒いというのに、何故真夏のような格好をしていたのか……その理由が解ったような気がする。
菊地の身体は、熱くなると痒みが増すらしい。
セックスの最中は殆ど無かったが、終わった瞬間から取り憑かれたかように全身を掻き毟っていた。ゴリゴリと、骨の髄まで抉るような奇妙な音──それが、部屋中に鳴り響く。
左の乳首より下に幾つかある、直径二センチ前後の丸い湿疹。
その瘡蓋が剥がれ、黄色い膿のような浸出液がドロッと滴り落ちる。
その丸い湿疹は、脇腹や腰辺りにも及んでいた。
魚のような、生臭い臭い。
部屋に入った瞬間に感じた、独特な臭いと同じ。
その浸出液は、まるで液状のり。
僕の身体に張り付いた状態で乾き、動く度に皮膚が引っ張られパリパリとした。
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