シンクロ -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る5-

真田晃

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菊地編

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「……お前が、若葉の“甥”……か」

距離が縮まるにつれ、菊地の細部がはっきりと見えてくる。

遠くからでは解らなかった──顔全体が、少しだけ赤い。
……いや、顔だけじゃない。

首も。肩も。腕も。
露出した肌という肌は全て、カサカサとしていてキメが荒く、ヤスリで擦れたかのように赤くなっている。

暑いのか。黒のタンクトップに迷彩柄のハーフパンツ。細身の身体。
向こう側が見え難いほど濃い色をしたサングラス。顎髭。
背はそれ程高くはない。ハイジよりも僅かにある程度だ。

サングラスの奥に潜む瞳が僕を捕らえながら、肘より上辺りをボリボリと掻く。

「俺も随分、舐められたもんだよなァ……」

口の片端を吊り上げ、白い歯を見せる。
僕の前に仁王立ちすれば掻いてた方の手を伸ばし、僕の顎下に差し込んでクイと持ち上げる。

「………」
「まぁ、いい。……服脱げ」

怯まずに相手をじっと見れば、早くしろと顎で急かされる。

……少し、我慢すればいい……
これも、ハイジの為だ……

そう自分に言い聞かせ、言われるがまま服に手を掛ける。
腕を交差しシャツを捲り上げれば……現れたのは、ハイジに付けられた生々しいマーキングの数々。

「……おい、待て」

腕組みをし傍観していた菊地が、奇妙な声を上げた。

「お前、ここに来る前に誰かとヤッてきたのか?」
「………」

答える代わりにじっと相手を見れば、菊地がチッと舌打ちする。

「クソ、舐めやがって……!」

あからさまな嫌悪感。
こちら側からは見えない眼が吊り上がったのが解った。


首輪を掴まれる。
引っ張られた後、乱暴に投げ倒される。

スプリングが効きすぎるベッドに、身体が小さく跳ね上がった。

「この首輪。……お前、男のヘルス嬢か?!」
「……」
「だったら、それ相応の事をしてやるよ」

男が膝をついてベッドに上がり、うつ伏せの僕に跨ぐ。


「お前──俺を誰だと思ってやがんだ」


肩を掴まれ、乱暴にひっくり返される。
威嚇した声。含み笑い。
僕の顔の横に片手を付き、もう片方の手で僕の顔にかかった前髪を雑に搔き上げる。

その指先は異常なほど冷たく……老人のようにガサガサとしていた。


「コンクリ詰め事件の、主犯だ」


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