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菊地編
148.
しおりを挟む「……お前が、若葉の“甥”……か」
距離が縮まるにつれ、菊地の細部がはっきりと見えてくる。
遠くからでは解らなかった──顔全体が、少しだけ赤い。
……いや、顔だけじゃない。
首も。肩も。腕も。
露出した肌という肌は全て、カサカサとしていてキメが荒く、ヤスリで擦れたかのように赤くなっている。
暑いのか。黒のタンクトップに迷彩柄のハーフパンツ。細身の身体。
向こう側が見え難いほど濃い色をしたサングラス。顎髭。
背はそれ程高くはない。ハイジよりも僅かにある程度だ。
サングラスの奥に潜む瞳が僕を捕らえながら、肘より上辺りをボリボリと掻く。
「俺も随分、舐められたもんだよなァ……」
口の片端を吊り上げ、白い歯を見せる。
僕の前に仁王立ちすれば掻いてた方の手を伸ばし、僕の顎下に差し込んでクイと持ち上げる。
「………」
「まぁ、いい。……服脱げ」
怯まずに相手をじっと見れば、早くしろと顎で急かされる。
……少し、我慢すればいい……
これも、ハイジの為だ……
そう自分に言い聞かせ、言われるがまま服に手を掛ける。
腕を交差しシャツを捲り上げれば……現れたのは、ハイジに付けられた生々しいマーキングの数々。
「……おい、待て」
腕組みをし傍観していた菊地が、奇妙な声を上げた。
「お前、ここに来る前に誰かとヤッてきたのか?」
「………」
答える代わりにじっと相手を見れば、菊地がチッと舌打ちする。
「クソ、舐めやがって……!」
あからさまな嫌悪感。
こちら側からは見えない眼が吊り上がったのが解った。
首輪を掴まれる。
引っ張られた後、乱暴に投げ倒される。
スプリングが効きすぎるベッドに、身体が小さく跳ね上がった。
「この首輪。……お前、男のヘルス嬢か?!」
「……」
「だったら、それ相応の事をしてやるよ」
男が膝をついてベッドに上がり、うつ伏せの僕に跨ぐ。
「お前──俺を誰だと思ってやがんだ」
肩を掴まれ、乱暴にひっくり返される。
威嚇した声。含み笑い。
僕の顔の横に片手を付き、もう片方の手で僕の顔にかかった前髪を雑に搔き上げる。
その指先は異常なほど冷たく……老人のようにガサガサとしていた。
「コンクリ詰め事件の、主犯だ」
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