上 下
147 / 244
菊地編

147.

しおりを挟む

あれだけ饒舌だった奴が、途端に閉口する。
驚き見開いた黒い瞳。そこに、妖しい笑みを浮かべる僕が映り込む。

「……く、どう………」

瞬きを忘れた男が、顎下に触れる僕の手首を徐に掴む。僕の様子をじっと見据えたまま……

「ん、なぁに……?」

その手のひらが次第に汗ばむ。しっとりと湿り気を帯び、ベタついて……気持ち悪い。

「………だ、ダメだよ……そんな事……したら……」
「どうして……?」

口が勝手に動く。
コイツの手を振り払って、さっさと部屋から追い出してやりたいのに……

「……僕がどんな反応するのか、知りたいんでしょ……?」
「……」
「素直になってみたら? もう少し。……ねぇ」

首を少し傾げチラリと舌先を覗かせれば、男の喉仏が上下に動いた。

握られた手に籠められる力。
もう片方の手がゆっくりと伸び、僕の肩に触れた──瞬間。


バタンッ、


入り口のドアが勢いよく開き、ハッと我に返る。

そこから吹き込んだ風によって空気が動き、僕と男を取り巻く妖しい雰囲気が取り払われる。


「……オイ、五十嵐」


目の前の男が、冷や水を浴びせられたような表情に変わった。

「何やってんだ、お前」
「………菊地、さん……」

僕からパッと手を離し、慌てふためきながらベットから降りる。


菊地──

その視線の先──ドア前に立つ男、菊地が、五十嵐と呼ばれた目の前の男に威圧感を与えていた。

もし五十嵐が挑発に乗って、僕を押し倒していたとしたら……
或いは、それ以上の事になっていたら……

そう思った途端、背筋に寒気が走った。


「勝手に上がり込んでんじゃねぇ」
「……す、すみません」
「いいから、持ち場に戻ってろ」

深々と頭を下げた五十嵐に、菊地は訝しげな表情を浮かべる。

「……はい」

頭を下げたまま、五十嵐が僕の方へと視線を向ける。

惜しむような、同情するような、何とも言いようのない複雑な眼……




五十嵐と入れ違いに履物を脱いで部屋に上がった菊地が、此方へと近付く。

身形。背格好。
それはあまりに普通すぎて、想像していた菊地像をことごとく覆された。

「……」

確かに、纏うオーラはそれなりのものを感じる。けど、龍成を世話したという程の人物とはとても思えない。

どんな凶悪で凄いオーラの持ち主なのだろうかと、心の何処かで身構えていたというのに──



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...