シンクロ -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る5-

真田晃

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菊地編

144.

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抜けたいの……?


そう聞こうとして、止めた。
仲間意識をより強く持たれそうで。

渡されたミネラルウォーターを口に含むと、タイミング良く彼がペットボトルを奪って蓋を締める。


「……工藤は、さ………嫌じゃないの?」


また唐突に聞かれる。
始終目を泳がせて、落ち着かないのか。握ったままのエコボトルをペコペコと凹ませ、リズムカルに鳴らす。

「その、好きでもない人と……するの」
「嫌だよ」

低い声で即答してやる。


一体、僕を何だと思っているんだ。

キスマークを隠さずに学校に行った事は、何度もあるけれど……だからって、節操のない人間なんかじゃない。

……誰でもいい訳、ないじゃないか。


「嫌なのに、どうして。
……もしかして、今までずっと、そうだったのか……?」
「……」

『抜け出したい。でも抜け出せない境遇は……俺と同じじゃないか』とでも思ってるんだろうか。
……そうやって僕を勝手に枠に嵌めて、解った気になって同情でもするつもり……?

仲間意識……?
……ふざっけんな。
僕とお前は全然違う。
お前には、ちゃんと帰れる場所があるだろ。

「……合意の上じゃない、というか。……樫井秀孝の時も、そうだったのか……?」

向けられた目が、しっかりと僕を捕らえる。
もう、ブレたりなどしていない。上から目線の……単なる、興味……

「……うん、そう。
知らないうちに媚薬飲まされて。思い通りにされて……」
「……そ、っか……」

動揺したように瞳が揺れ、顔を背ける。指の動きも止まり、ペコペコとした不快な音が消えた。

「……こうして話してみないと、解らない事って……あるんだな。
ほら、今はさ、アゲハ王子に……その……」
「僕が迫ったって話?」
「……そう、それ」

真剣な顔をしてズケズケと聞いてくるから、何だか可笑しくなる。
この男は、最初から遠慮ってものが備わってないんだろう。
さっきから不快感が露わになってしまうのは、勝手にパーソナルスペースを踏み荒らしてくるから。


「……実際、どうなんだ……?」


ほら。また無遠慮に聞いてくる。
アゲハの怪我の真相を知りたいだけなんだろうけど……

あの時──若葉の指示で、兄とセックスしなくちゃ殺される所だった……なんて言ったら、どんな顔をするのかな。
少し目を見開いて、「……そっか」って。樫井秀孝の時のように、他人事のように処理されるんだろうか。

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