135 / 278
菊地編
135.
しおりを挟む×××
繁華街を一望できる小高い丘。
山道をもう少し上った先に見えるのは、妖しげなピンクと紫の光を天に放つ古びたラブホテル。
夜景を見に来たカップル達を、飢えた獣のように今か今かと待ち構えているようで……かえって不気味に映る。
随分前を走っていた車がウインカーを出し、夜景スポットである駐車場へと入る。
「お盛んなカップルだねぇ」
助手席にいる吉岡が、軽い口調で大きな独り言を言う。
「それとも、……狩る方だったりして?」
その言葉に、僕の隣に座るモルの肩がピクリと小さく跳ねた。
「僕らも、ちょっと休憩しようよ」
「……はい」
吉岡の言葉に同意し、運転手の男がウインカーを上げた。
広めの駐車場。
その一角には、幾つか建ち並ぶ廃れたプレハブ小屋。寂れた空間。
とうの昔にこの観光地は時代遅れの産物と化し、平日の昼間に訪れる者は皆無なのだろう。
錆の目立つシャッター。所々にスプレーで描かれている、縄張り用のサイン。
白線内に車が収まれば、サイドブレーキの上がる音がした。
「……何で、ここなんスか?」
「何でって……ここで待ち合わせなんだよね」
シートベルトを外さず振り返った吉岡は、くぐもった声で質問したモルに軽く答える。
「……嫌だった?」
「いや、………」
柔和な顔を見せながら、吉岡がサラッと続けて言う。対し、モルは窓の方に顔を向け、言葉を濁す。
「あー、解ったんだ。ここがどんな場所かって」
「………」
相変わらず含んだような言い方。
ここがモルにとって忌まわしい場所なのは、何の事情も知らない僕にも伝わる。
「でも、姫は全然解ってないみたいだからさ。
………優しく教えてあげなよ、類くん」
吉岡の台詞に弾かれたモルが、此方に顔を向ける。弱々しい視線が少しだけ絡み、直ぐに解かれた。
「……いいよ。無理に話さなくて……」
「え、いいの……?
類くんの事、もっと知りたいでしょ?………だって、セックスした仲じゃん」
……え……
なに、こいつ……
ゾワッと全身が総毛立つ。
吉岡から視線を外し、目を開いたまま彷徨わせる。
……なに、言ってんの……
「……」
その視線がモルとぶつかる。
縋る思いでモルを見れば、直ぐに外されてしまった。
「言っちゃいなよ。楽になるから」
吉岡が何かを取り出して掲げ、それを小さく振ってみせる。
「証拠ならまだこの中に入ってるんだけどさぁ。……これ、要る?」
意地の悪い、吉岡の笑い声が車内に響く。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説

【完結】待ってください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。
毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。
だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。
一枚の離婚届を机の上に置いて。
ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる