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菊地編
135.
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繁華街を一望できる小高い丘。
山道をもう少し上った先に見えるのは、妖しげなピンクと紫の光を天に放つ古びたラブホテル。
夜景を見に来たカップル達を、飢えた獣のように今か今かと待ち構えているようで……かえって不気味に映る。
随分前を走っていた車がウインカーを出し、夜景スポットである駐車場へと入る。
「お盛んなカップルだねぇ」
助手席にいる吉岡が、軽い口調で大きな独り言を言う。
「それとも、……狩る方だったりして?」
その言葉に、僕の隣に座るモルの肩がピクリと小さく跳ねた。
「僕らも、ちょっと休憩しようよ」
「……はい」
吉岡の言葉に同意し、運転手の男がウインカーを上げた。
広めの駐車場。
その一角には、幾つか建ち並ぶ廃れたプレハブ小屋。寂れた空間。
とうの昔にこの観光地は時代遅れの産物と化し、平日の昼間に訪れる者は皆無なのだろう。
錆の目立つシャッター。所々にスプレーで描かれている、縄張り用のサイン。
白線内に車が収まれば、サイドブレーキの上がる音がした。
「……何で、ここなんスか?」
「何でって……ここで待ち合わせなんだよね」
シートベルトを外さず振り返った吉岡は、くぐもった声で質問したモルに軽く答える。
「……嫌だった?」
「いや、………」
柔和な顔を見せながら、吉岡がサラッと続けて言う。対し、モルは窓の方に顔を向け、言葉を濁す。
「あー、解ったんだ。ここがどんな場所かって」
「………」
相変わらず含んだような言い方。
ここがモルにとって忌まわしい場所なのは、何の事情も知らない僕にも伝わる。
「でも、姫は全然解ってないみたいだからさ。
………優しく教えてあげなよ、類くん」
吉岡の台詞に弾かれたモルが、此方に顔を向ける。弱々しい視線が少しだけ絡み、直ぐに解かれた。
「……いいよ。無理に話さなくて……」
「え、いいの……?
類くんの事、もっと知りたいでしょ?………だって、セックスした仲じゃん」
……え……
なに、こいつ……
ゾワッと全身が総毛立つ。
吉岡から視線を外し、目を開いたまま彷徨わせる。
……なに、言ってんの……
「……」
その視線がモルとぶつかる。
縋る思いでモルを見れば、直ぐに外されてしまった。
「言っちゃいなよ。楽になるから」
吉岡が何かを取り出して掲げ、それを小さく振ってみせる。
「証拠ならまだこの中に入ってるんだけどさぁ。……これ、要る?」
意地の悪い、吉岡の笑い声が車内に響く。
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