上 下
123 / 168
ハイジ編

123.

しおりを挟む


……どうして、気付かなかったんだろう。

ハイジは最初から……僕を……


その時の気持ちを思うと……苦しくて。
堪えようとしていた涙が溢れ、頬を濡らす。


「リュウさんに、連絡……しますね」

僕の様子を伺いながらも、モルが念押しする。

「………」

濡れた睫毛を持ち上げ、意思の強い瞳と合わせると、ゆっくりと頷く。
……声にしたら、涙がまた溢れてしまいそうで。


手にしていた携帯を操作し、モルが背を向ける。
しかし、出ないのか。再び画面を見ながら掛け直し、耳に当てる。

「……モル」

膝を抱えたまま、背中にそっと声を掛ける。

「モルは今まで、どうしてたの……?」

竜一が用意してくれたアパートに連れて行ってくれた日から……モルの姿を見かけなかったのが気になっていた。

「……」

モルの動きが、止まる。
携帯を持つ手が徐に下がり、ゆっくりと僕の方へと振り返る。
その表情は、何処か険しく。先程までとは違う雰囲気を醸し出していた。


「……太田組の組長が、亡くなったんッス」


モルの眉間に、皺が寄る。

「太田組は、東神会の中でも勢力のある組織なんッス。その組長が引退して、二代目をタイガさんにって話があったんスけど。本来なら、若頭の大友さんがなる筈だったみたいで……揉めてる最中だったんッス」
「……」
「それが突然、組長が亡くなって。組内の大友組と虎龍会の対立が激しくなって──今、潰し合ってる状態なんスよ」


『兄貴が継いだら、俺を解放する約束をしてくれてる。……上手くいきゃあ、お前のいる世界に戻れる』

──以前、竜一はそんな事を言っていた。

僕は裏社会の事なんてよく知らないけど。そんな危険な状況だからこそ、僕が巻き込まれないよう警戒していたんだ……


「俺は今……リュウさんのいる虎龍会じゃなく、大友組のパシリみたいもん、やらせて貰ってるんッス……」

少しだけ落ち着かない様子で、モルの視線が横に外される。

「……そっか……
だから、竜一の運転手が……モルじゃなかったんだ……」
「そうッス」

そっか……良かった。
僕はまた、モルに何かあったんじゃないかって思ってたから……

「……」

……でも……
どうしてモルは竜一側じゃなく、敵対する組織の方に付いたんだろう……



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

支配された捜査員達はステージの上で恥辱ショーの開始を告げる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

闇夜 -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る3-

真田晃
BL
僕を束縛・強姦・監禁したハルオの元を抜け出し、凌のサポートを受けながら希望通りの生活を送っていた。 が、世の中そんなに上手い話なんて──無い。 ††† 初めての一人暮らし。再開する学校生活。そして、生計を立てる為の簡単なアルバイト。 いつか迎えに来てくれるだろうハイジを待ちながら、そんな平穏な日々を過ごし始めていた。 ある日、凌の後輩である『水神シン』と知り合う。冷酷な印象を持つ彼に容赦なく罪悪感を植え付けられ、次第に裏社会へと引き摺り落とされていく。 そんな中、とあるパーティで出会った俳優・樫井秀孝に、卑劣な方法で『身代わり』をさせられてしまう。 その本当の意味を知り、思い知らされた竜一への想い。そして、竜一の想い。 運命に翻弄され、傷付きながらも、それに抗い、立ち向かっていった先に待ち受けていたのは── 『アゲハ舞い飛ぶさくら舞い散る』シリーズ3作目。 注:実際にあった事件をヒントにした部分があります。 ◇◇◇ この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在の人物・団体・名称等とは一切関係ありません。 また法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ◇◇◇ 表紙絵は、「キミの世界メーカー」で作成後、加工(文字入れ等)しました。 表紙キャラクターは、エセ関西人の凌。 ※関西弁に間違いが御座いましたら、遠慮なくご指摘して頂けますと有り難いです。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...