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ハイジ編

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×××


ガギッ、ギチチ……

手を動かして引っ張れば、僕を拘束した手錠の鎖部分が、咬ませたベッド柵の金属と擦れ合って耳障りな不協和音を立てる。

……はぁ、……あ……

さっきよりも、意識が大分戻って来る。痛さと苦しさで、呼吸はまだ少し乱れてしまうけれど。


窓の方を見れば、薄明るい光がカーテン越しから優しく溢れている。

もう夜が明けたのかと、大きく息を漏らす。






「戻ったら、逃げンぞ。一緒に」
「………」

数時間前。
僕をベッドに拘束した後、スーツに着替え、手櫛で髪を簡単に整えたハイジが口を開く。

その姿を、僕はぼんやりと見つめていた。

襟元を弄りながらもう片方の手をベッドに付き、僕の顔を覗き込むと触れるだけのキスを落とす。

「……」

抗おうなんて、思わない。
ハイジの望むままを受け入れる──

でも、それでいいとも思っていない。決して。


「……いい子、してろよ」

ハイジの手が伸び、僕の頬をひと撫でする。

優しくて、穏やかな瞳。
海よりも深い闇が、その奥に潜んで見えるけれど……

同時に襲ってくる、身の危険を感じるゾクゾク感と、指先まで痺れる緊張感。
身体の中で化学反応が起き、心臓が酷く高鳴りながらも、カァッと一気に全身が火照る。

どうしようもなくハイジに惹かれてしまうのを、おかしいと感じながら。


「んな顔すンなって。……すぐ戻ってくるからよ」


再び舞い降りる唇。
でも、今度は唇じゃなくて。
前髪をそっと掻き上げられ、剥き出されたそこに熱が当てられる。


ギシッ、
ベッドが僅かに軋む。

伏せた目を上げれば、鼻先数センチの所に、ハイジの唇が……


「………んっ、」


触れられて直ぐ、唇を割られる。
侵入したハイジの舌が、咥内を弄りながら奥に潜む僕の舌を突っつく。それに答えようと自ら差し出し、ハイジの舌に絡めた。


……クチュッ、


絡み付いては舐り、吸い上げられ……ハイジの咥内へと誘われる。

このままでは駄目だ、と頭の片隅で警鐘を鳴らしているというのに。


「………はぁ、っン、」


ねっとりとしたハイジの唾液が、舌を伝ってゆっくりと流れ込む。
それを抵抗なくこくん…と飲み込めば、舌を絡めたまま僕の咥内へと戻される。


クチュ、チュッ……

一通り咥内を弄った後、ハイジの舌が引き抜かれ……ゆっくりと離される。


……はぁ、はぁ

触れそうな距離で、熱い吐息が掛かる。柔く瞼を持ち上げれば──再び重ねられる唇。

今度は、唇の上と下を交互に食んで………それから、名残惜しそうに離れていく。


「………じゃあ、な」


穏やかな声色を残し、部屋を出て行くハイジ。
その背中を、ぼんやりと見送る。

「……」

黒のスーツに、サラリと靡く白金色の髪。
よく映えて、綺麗だな……と見蕩れながら。




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