上 下
106 / 199
ハイジ編

106.

しおりを挟む

顎裏……歯列……頬裏……
咥内を嬲り、掻き回し、わざと僕から欲情を引っ張り出そうとする。

それに従いそうになりながらも、ハイジの手を柔く握り返す。抗いの意思を示すように。


「………」


唇が、ゆっくりと離れていく。
眉間に皺を寄せ、僕の顔を覗く切れ長の眼が鋭く尖ったまま、一瞬だけ揺れる。

「……セックスしたって話まで、オレにすンじゃねーよ。………聞きたくねぇ」
「………」
「それにアイツの名前、連呼し過ぎだろ」

ハイジの視線が逸らされ、白金の髪が靡く。
僕を追い出したその鋭い眼に、地を這うかの如く徐々に殺意が芽生えていた。


「……もう、全部知ってっから。
昔の仲間に、お節介野郎がいてよ──オレに逐一密告してきたからな」


昔の……仲間……?


『もし、今すぐ忘れねぇんなら……お前が本当は誰のオンナなのか、俺も忘れねぇぜ』


……まさか、太一が………?


「………」


でも……太一がそんな、危険な橋を渡るだろうか……


「オレのさくらにチョッカイ出して、思い通りにしてたかと思うと──スゲェドタマにくるし、今すぐぶっ殺してやりてぇよッ……!!」

「───ッ、」


駄目……それは……


繋いだハイジの手が、怒りで震えている。
吐く息も乱れて、荒っぽい。


「………ハイ、ジ………」


縋るようにハイジの名を呟く。
その声に反応したハイジが黒眼を向け、僕を見下ろす。
僕と目が合った途端、先程までの荒々しさが収まり……口角を緩く持ち上げながら、繋いだ方ではないハイジの手が僕の前髪を徐に搔き上げる。

「……それでもさくらは、ちゃんとオレん所に戻ってきてくれたンだよな。
オレに抱かれながら、オレを求めて腰振って……色っぽくて可愛い声まで上げて……オレを感じて……

………だろ?」


真っ直ぐ見下ろす、ガラス玉の瞳。
搔き上げた手が頬を包み、親指の腹で僕の下瞼をスッと引く。


「………」


肌表面から感覚が無くなり、全身が微かに震える。
ちゃんと息ができているのか、涙が溢れてしまったのか………自分でも解らない。

上擦ったままハイジを見つめれば、まだ邪鬼を奥に潜めたままの瞳が緩み、優しい声色で僕に囁く。


「心配すンなよ。奴を殺したりなんか、しねーから……」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

助けの来ない状況で少年は壊れるまで嬲られる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...