シンクロ -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る5-

真田晃

文字の大きさ
上 下
99 / 281
ハイジ編

99.

しおりを挟む


「……」

確かに、そうだ。
考えてみれば、ハイジなんて名前……本名な筈がない。

初めて名前を聞いた時、変わってるな……とは思ったけど。
チームのみんなもそう呼んでいたから、何となく受け入れてしまっていた。

「なんで、ハイジって名前……」

静かにそう聞けば、ハイジの口角が得意げに持ち上がり、僕の前髪をそっと掻き上げる。

「漢字で『高次』って書くんだけどな。『高い』は英語で『ハイ』だろ?『次』は『ジ』って読めるじゃん。

……それで、『ハイジ』」

「……」
「いい名前だろ?
施設抜けてから、ずっとこの名前を使ってきたからさ。……こっちの方がしっくりくるし、オレらしい気がすンだよな」


そっか……
ハイジは一度、名前を捨てたんだ。

それで、自分の居場所を探して。チームの仲間を見つけて。人生の基盤を築き上げた所で……また、名前を捨てなくちゃならないなんて……

「……ハイジ」
「ん?」
「二人でいる時は、『ハイジ』って……呼んでもいい?」

僕の言葉に困惑したのか。ハイジの動きが止まる。

「………バカ。呼ぶなって、いま言ったばっかだろ」
「ハイジ」
「何だよ!」

少し荒げた声を上げつつも、ハイジが優しい眼で僕を見下ろす。

暗くて、あまりよく見えないけど。少し唇を尖らせ、何となく照れてるようにも見えて……心が、震える。


「……髪は、素のままの……白銀にして……」


そっと手を伸ばし、さらりとしたハイジの横髪に触れる。

この綺麗な髪が、黒く染められてしまうなんて。僕のせいで、今までの全部捨ててしまうなんて……

そんなの、嫌だから。


底なしに冷たい床。
背面から、体温がどんどん奪われていく。

感覚が無くなり……ピリピリと痺れる指先。その手首を摑んで引き離したハイジが、僕にスッと顔を近付ける。


「………出来ねぇよ」


ゆっくりと、唇が僕の額に当てられる。

ちゅっ、と小さなリップ音が鳴った後、少し離れた所で、その唇が僅かに動く。


「でも、………」


最後、何て言ったんだろう。
聞き取れない程、小さな声だった……

だけど、聞き返せる雰囲気ではない気がする。

底無しに優しい瞳──目を合わせ続けていたら、吸い込まれて……何処までも堕ちてしまいそう。


「………」


こんな、綺麗な瞳を……他に見たことがあるだろうか。

真っ直ぐで、純粋で、繊細なハイジを──壊したくない。


これ以上、壊れて欲しくない……




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

ヤクザに囚われて

BL
友達の借金のカタに売られてなんやかんやされちゃうお話です

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

短編集

田原摩耶
BL
地雷ない人向け

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...