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ハイジ編

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予想外の台詞に驚き、瞼を上げハイジを見る。

「さくらと一緒に、知らねぇ土地でひっそりと暮らすのもいいな……って」
「……」
「何だよ」

少し、ぶっきらぼうになる口調。
唇を僅かに尖らせ、何処か照れたようなその瞳は……何故か嬉しそうで。

「前に話したろ? オレは暴力団組員じゃねーって」
「……」
「だから、抜けるも何もねーけど。
オレ、結構この世界に足突っ込んじまってるし。龍成さんには、マジで頭上がんねェからさ……」

ハイジの眼が揺れる。
憂いの影が灯り、弱々しく光るそれに胸が締め付けられる。

「……」

小さくついた溜め息。何処か遠い過去を辿るように、ハイジの視線が逸らされ彷徨う。


「………覚えてっか?
去年の夏。チームのみんなと、海岸沿いをバイクで走った時のこと」


──ドクンッ、

心臓が大きく胸を打つ。

男達に声を掛けられてる僕を見たハイジが豹変し、相手に重い傷害を与えてしまった時の光景が思い出される。


「あン時……さくらにちょっかい出した野郎を、オレがボコったろ?」
「………うん」
「ソイツ、あの後………死んでさ……」


───え………


ゾクッ、と背筋が凍りつく。
温かな腕の中に、いる筈なのに……


『死』という言葉に、身体は正直に反応を示すものの………脳はそれを拒絶し、何処か現実離れしたような感覚に陥る。

一年も前の出来事だからだろうか。
それとも……僕にとって被害者は、どうでもいい存在だからだろうか。

亡くなってしまった人に対しての悲しみは、そこまで持ち合わせていない。
けど──ハイジが犯してしまった事を思えば、じわじわと罪悪感が襲い、胸の奥が痛む。


あの日の夜。
ハイジが酷く怯えて、僕に縋り付いてきたのは──そういう事、だったんだ……


「その後始末を引き受けてくれたのが、龍成さんなンだよ」
「……」


後始末──って。

そういえばあの時、ハイジは何処かに電話を掛けていた。

その相手が、龍成だった……ってこと……?


「………まぁな。オレらのチームのケツモチやってたからな」


声が、自然と漏れてしまったのだろうか……
ハイジの落ち着き払った返答に驚く。


「でも、その代償に……クスリを売りさばかなきゃなンなくなって……」


『オレ、今度……ヤベぇ仕事すンだよ』
『暫く、あの溜まり場には戻れそうにねェんだ』


「……」


そん、な……






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