上 下
90 / 199
ハイジ編

90.

しおりを挟む


……さくら……

大丈夫だよ……さくら……


お兄ちゃんが守ってあげるから。



僕の髪を撫でる手。
優しくて……温かくて……

安心する。



………ヒュッ、


突然、大量の空気が咥内に流れ込む。しかし直ぐに喉が張り付き、その奥から奇妙な音が漏れる。

本能的に酸素を求め、口をぱくぱくと動かすけど。入ってくるのは口先ばかりで……やっと僅かに喉を通ったとしても、すぐに噎せ返ってしまう。

肺に空気が残ってないせいか。吸いたいのに吸えない苦しさと、苦しさから解放されたくて、吐き出したい衝動が同時に働く。
鳩尾の辺りが何度もべこべこと凹み、普段なら恥ずかしくなるような嗚咽の音が何度も出てしまい、余計に僕を苦しめる。



「……さくら……」


涙で濡れた睫毛を、僅かに持ち上げる。

視界に映るのは、ハイジの不安げに揺れる瞳。
何となく焦点が合うと……何処かホッとしたように、ハイジの表情が緩む。


……ハイ、ジ……


まだハッキリとしない、意識。
感じるのは……ズキンズキンと脈打つように痛む頭と、寒気と、痺れ。
それと、首に残る絞められた感触。喉の違和感。
息苦しさ。


「………」
「悪ぃ。……悪ぃかった……」


僕に手を伸ばし、床からそっと抱き掬う。

大麻用のLEDから漏れた光が、ハイジの髪と顔の一部を明るく照らす。

透き通るような、白金の髪。

こんな時まで、綺麗だな……なんて思ってしまう僕は、やっぱり可笑しいのかな。


ハイジの腕に包まれながら、その髪にゆっくりと手を伸ばす。
と、その手首を、戸惑うように緩く掴んだハイジが、自身の頬へと誘導する。


「オレ、……さくらを失うかと……本気で……」


酷く怯える手。
親指の腹を横に引き、頬に濡れた涙を拭う。


「……もう、傷つけたくねぇのに……」
「………」


頬から僕の手を剥がしたハイジが、目を伏せ……その指先に、キスを落とす。

そこから、溢れる程のハイジの優しさや愛情が注ぎ込まれ、僕の身体へと流れていく。


……ズキ、ン……


ハイジが解らない、なんて……

……なんでそんな事を思ってしまったんだろう……


こんなに真っ直ぐに、僕の事を思ってくれているのに……





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

助けの来ない状況で少年は壊れるまで嬲られる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

ヤクザに囚われて

BL
友達の借金のカタに売られてなんやかんやされちゃうお話です

処理中です...