シンクロ -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る5-

真田晃

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ハイジ編

83.

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妙な緊迫感。
水の中にいるように、息が苦しい。


「……なに、って………別に」


ドクン、ドクン……
心臓が早鐘を打ち、末端へと押し流されていく血液。ドクドクと脈動する指先。
それとは反対に、サッと血の気が引き、思考が停止していく脳内。

「イスから落ちちゃったから……大丈夫? って、声掛けられただけ」
「……」

今まで生きてきた中で、嘘をついた事がない訳じゃない。だけど、平気で嘘をつける質でもない。
自然に答えたつもりだけど、きっと見透かされてしまっているんだろう。

押し黙るハイジの横顔を、覗うようにじっと見つめる。



濡れた路面を走る音。ワイパーのゴムが、ガラスに密着しながら動く音。パチパチと、窓ガラスに打ち付ける雨音。ザッピングの混じる、ラジオの音。

そして、僕の落ち着かない……心臓の音───


「……そうか……」


チラリと此方に視線を向けた後、直ぐに外してしまう。


「……」


外の景色を眺める。

窓ガラスから感じる、ひんやりとした空気。
それが、少しだけ熱くなってしまった僕の身体を冷やしてくれる。





「……なぁ、さくら」

空気を変えたのは、ハイジの方だった。

緊迫した、何処かおかしな雰囲気を引きずったままウィークリーマンションに戻り、ベッドのある部屋へと足を踏み入れ、一息つく間もなかったと思う。

「近々、二人で旅行でもしねーか?」

話し方や声のトーンから、僕の知ってるハイジに戻ったんだと思った。

……だけど、何だろう……

よく解らない不安が、胸の中に渦巻いてく。

「ずーっと北の方へ向かって行けば……まだどっかで咲いてんだろ」
「……」
「桜が、さ……」

ぼそりと呟く声に、いつもの覇気が感じられない。ハイジらしいやんちゃなオーラさえも……

「……見に行きてェな、さくらと」

哀愁を背負い込んだような、ハイジの表情。
眼に鋭さはなく、感傷的な気分に浸ったような色に変わり、何処か頼りなさそうに揺れ動く。

「……」

なんだろう……おかしい。
この違和感は、この胸騒ぎは……一体、何なんだろう……






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