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ハイジ編
79.
しおりを挟む……飼育……?
金髪蒼眼の吐いた言葉に、嫌悪感を抱く。
でも、それだけじゃない。
僕を挑発するような物言いにも腹が立つ。
───なんなんだ、コイツ。
「あれ? 心外だって顔してるけど。……もしかして、自分がハイジの特別な存在だとでも思ってる?」
「うん。そのつもり」
目の前のホストを拒絶するように、じっと見据える。
動じない。決して僕から目を逸らさない。その手を払い除けない───
「そっか。……もうそこまで洗脳されちゃったのか」
探るような眼が緩み、表情を崩す。僕の緊張を解くように。深い溜め息をつきながら。
「……ぇ、」
その瞬間──瞳に優しい光が宿り、僕との心の距離を詰める。
今までの態度は、全部演技……?
僕を、試してた……?
……だとしても。
“洗脳”という言葉がどうしても引っ掛かり、嫌悪感は拭えそうにない。
「こうなる前に、何処かで耳にした事はなかった?」
スッと薄い唇が、僕の耳元に寄せられる。
「誑し込んだ女性を、何だかんだ言いくるめて……この首輪を付けさせて……
……いい具合に従順な奴隷に成り下がったら、そういう趣向の顧客相手に出荷してるって話」
ふわっ、と仄かに漂う薔薇の香り。ホストが纏っている香水の匂いなんだろう。
しかし、その高貴で優雅な甘い香りとは裏腹に、口から飛び出すものは、物騒な言葉の数々。
「……そんな事……!」
「見た所、まだ綺麗だけど。そのうちされるよ?………暴力」
僕の反応を楽しんでいるのか。男の口角が少し持ち上がる。
だけど──その瞳は真っ直ぐ僕を捉え、とてもふざけている様には思えない。
「あんまり信じてないみたいだけどさ。俺、アゲハとは前の店では同期で……友達なんだ」
「……」
「アゲハが守りたいって言ってた弟くんだから、わざわざこうして危険を冒してまで密告してるんだよ?
……まぁ、信じるも信じないも、君の勝手だけどね……」
そう言って視線が揺れた後、直ぐにまた口を開く。
「………教えてあげるよ。
前に、ハイジがここに連れて来た女性の話を───」
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