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ハイジ編
78.
しおりを挟む「こんな所で油売ってないで、指名のひとつでも取って来たら?……万年ヘルプくん」
切れ長の蒼眼が、不敵な笑みを溢す。僕の言葉尻を真似て、童顔ホストを揶揄いながら。
……こいつら、ヘルプ組だったのか。
なのに、よくナンバーワンホストまで上り詰めたアゲハを侮辱できたな。……こっちの事情なんか、何にも知らない癖に。
軽蔑した視線に、怒りと同情とが混ざり合う。
「………は、はい。すいませんっ」
僕からサッと離れ頭を下げた万年ヘルプくんが、簡単に身形を整えた後、何処か含んだような表情のままバックヤードを飛び出す。その後を、新人眼鏡があたふたと追い掛けていく。
「正直、見直した」
薄い唇の端が、少しだけ持ち上がる。
「この世界には似合わない気がしてたから。さっきの雑魚に、簡単にやられちゃうかと思ったよ」
そう言いながら、金髪蒼眼ホストが僕の方へと近付く。
「……」
目を逸らさず、ソイツを下から睨み付けるけど。僕では、威圧感とかそういったものは一切感じないらしい。
「アゲハの弟なんだってね。どおりで何となく似てた訳だ」
独り言のように呟きながら、僕の傍らに立つ。そしてジャケットの裾をパンと手の甲で払った後、スッとしゃがみ込む。
「……で。アゲハの弟が、なんで大友組の“狂犬”と一緒にいんの?」
……大友組……?
そんな具体的な名前を聞くのは、初めてだった。
ハイジは、龍成って人の恩義を感じて仕事を手伝ってるだけで、暴力団組員になった訳じゃないって言ってた。
でも……
……“狂犬”……って……
まさか、暴力団に飼われてるって訳じゃ……
「アゲハがこの世界に飛び込んだのは、弟をヤクザから守る為だって聞いていたけど。……あれ、嘘だったの?」
細められる切れ長の目。口角を綺麗に持ち上げた、営業スマイル。
その顔からは、何の感情も感じられない──吸い込まれた所で、ブラックホールのような闇が広がるだけ。
「……」
「まぁ、別にいいけど。……これ付けてるって事は、ハイジに捕まって飼育されてるって事だよね」
押し黙る僕の首元に、ホストの片手が伸びる。
黒革の首輪。それを下から人差し指で引っ掛け、二度ほどジャラジャラと揺らす。
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