シンクロ -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る5-

真田晃

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ハイジ編

70.

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その指先が肌に触れた瞬間……自分でも気付かぬうちに溜まっていた涙が、ぽろりと零れ落ちる。


「……泣くなよ」


空いている方の手が伸び、僕の頬を優しく包む。濡れた目頭に親指を当て、下瞼に沿ってその涙を拭う。

「………悪ぃかったな。
初めてここに連れて来た時、無理やりヤっちまって……」
「………」
「今も……正直、怖かったンだろ」


……違う……
怖かったんじゃない……


ハイジを見つめたまま、小さく頭を振ってみせる。

「……何だよ。ンなにしたかったのかよ」
「……」
「そこは、『うん』って言わねーンだな……」

緩く口角を持ち上げ、冗談めいた口調で吐く。
憂いを帯びた甘い吐息をひとつし、伸びきった僕の横髪に指を差し入れる。


……ハイジ……


見つめたまま、その手の甲にそっと重ねる。


「さくら……」


突然。発作の如く僕を引き寄せ、力強く抱き締める。

合わせた胸と胸。
心と心……

心音が重なり、ひとつになっていく。


「もう……傷付けたくねぇし、傷付く顔も見たくねぇ……」
「……」
「……でも、愛情を注がれた事のねぇオレが、お前にちゃんと注げてンのか……時々解んなくて、不安になる……」


ハイジの手が僕の後ろ髪に触れ、繰り返し何度も優しく撫でる。


「……大事にすっから……

今までよりずっと、いっぱい甘やかしてやりてぇし、嫌な事はしねぇ。この手で守ってやりてぇ。

……だから、オレから離れんなよ。
ずっと、オレの傍にいてくれよ」


それは、僕を甘やかしているようで、ハイジ自身が僕に甘えているようにも思えた。


「……さくら……
もう一度、全部……オレのモンに、なって」


ズキン、と胸の奥が痛む。
それ程までに、ハイジの真っ直ぐな想いが伝わってくる。


「………うん」


ハイジの背中に手を回し、そっと添える。


……ハイジ
ずっと傍にいるよ……


ぼやけていく視界。
瞬きひとつすれば、濡れた睫毛に引っ掛かっていた雫玉が、ポロリと落ちた。




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