56 / 274
ハイジ編
56.連鎖
しおりを挟む×××
ガタガタガタ……
暗くて狭い折檻部屋。そこに、膝を折り畳んで小さな背中を丸める。
もうずっと、震えが止まらない。
……おかあさん……どうして……
ジンジンと熱く腫れぼったい頬に、そっと触れる。涙でぐしょぐしょに濡れたそこは既に粘着性を帯び、指を離すと皮膚が引っ付いてくる。
ぼく……なんにもわるいこと、してないのに……
まだ呼吸も整わず、上擦りながら鼻をスンッと啜る。
キィ……
突然、開かれる戸。
その瞬間──眩い光が隙間から射し込み、思わずぎゅっと目を瞑る。
『さくら……おいで』
ゆっくりと瞼を持ち上げれば、逆光で顔がよく見えないものの、アゲハだと解る。
嬉しくて、嬉しくて……僅かに顔が綻ぶ。
──なのに。
眩い光の向こう側から、アゲハの手が差し伸べられるだけ……
『……』
なんで……
なんでいつも、ぼくのところにきてくれないの……?
とじこめられるのが、こわいから?
それとも……アゲハにはこんなところ、にあわないから……?
『一緒に、謝りに行こう』
『……うん』
一瞬、生まれた疑問。
それが色濃く強く、僕の心に影を落とす。
……何でだ。
何でいつも、安全地帯から手を伸ばすだけなんだ。
本当に僕を助けたいと思ってるなら、この部屋に入ってくればいいだろ。
偽善者。僕を助けて、嘸かし良い気分だろう。
眉目秀麗。才色兼備。温厚篤実。
あらゆる賛美の言葉を受け、キラキラと煌めくようなオーラを振り撒き……勉強も運動も難なく熟し、周囲を気遣う優しさまで持ち合わせている。
おまけに、出来の悪い弟をも庇う──完璧な王子様。
爽やかな笑顔なんて、見たくもない。
僕が見たいのは──
射し込まれる光が、蛍光灯の白色から月明かりの淡い蒼白色に変わる。
アゲハの手だけがぼうっと浮かび上がり、ひらひらと舞う蝶の姿へと変化していく。
蒼白く光る、煌びやかな羽根。
それが、さらさらとした淡い光に溶け込みながら、優雅に舞い飛ぶ。
それはまるで、ハロウィンの夜に見た、ホスト姿のアゲハのよう。
此方に気付いたのか。
ゆらゆらと、優雅に舞っていた蝶が蒼白い光の中心から外れ、その美しい羽根が闇の端に触れる。
──瞬間。
ぽろっ、と……もげ落ちる羽根。
……え……
その羽根の上に、身がポトリと落ち、辺りに真っ赤な血が濡れ広がっていく。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます


目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる