シンクロ -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る5-

真田晃

文字の大きさ
上 下
49 / 273
ハイジ編

49.

しおりを挟む


鋭い視線──それが、僕から簡単に外される。

人が変わったかのような、ドス黒いオーラ。冷酷な横顔。
邪鬼を孕んだ眼が、真っ直ぐ前を見据えている。


───待って、ハイジ……!


立ち上がり、ウエイターの後について行くハイジに手を伸ばす。

その瞬間、ハイジが振り返る。
此方に向けられた眼は、既に闇色に支配され──僕を捉えながらも、僕など見えていない様子だった。


こうなってしまったハイジを……もう、止められる自信はない……

……だけど……
後悔の念に駆られ、苦しむハイジの姿も見たくない……


「……」


僕を制する、鋭い視線の圧。
それはほんの数秒──だけど確実に、僕の精神を串刺しにする。

動けなくなってしまった僕を残し、無言で背を向けるハイジ。

あの冷徹な瞳は、容赦なく誰かを傷付けようとする瞳だ……

「………ハイジ」

その背中に小さく声を掛ける。
もう一度手を伸ばし、引き止める勇気は……もうなかった。


「……さくら、いい子してろよ」


ハイジの低い声。
綺麗な白金の髪が、ゆらりと揺れる。


「………!」


問いかけに、答えてくれた……

たった、それだけ……
……だけどそこに、微かな希望が見える。


ハイジは……自分を見失ってない。


少しだけホッと胸を撫で下ろし、ドアの向こう側へと消えていくハイジの背中を見送った。





……パタンッ

ドアが閉まる。
瞬間、一変する空気。
それを肌で感じつつ、静かに腰を下ろす。

「……」

……大丈夫だ。
この部屋にいるのは、太一と隣の男だけじゃない……

テーブルを挟んだ向こうに見えるのは、ハイジを慕うチームの男達。
ジンを片手に一台のスマホを覗き込んだ後、一斉に足技ダンスを競い合う。

「バーカ、違ぇって!」
「あー、クッソ……酔ってきた……」
「……飲みが足りねぇんじゃねーの?」

キラキラと輝く笑顔。楽しそうな雰囲気。
馬鹿みたいに騒いで、馬鹿みたいに笑って。見ているこっちまで、笑みが溢れてしまう。

その光景は、楽しかった溜まり場での生活の記憶を、簡単に掘り起こす。

……懐かしい……

そんな事を思いながら、食べかけの焼飯に手を伸ばした時だった。


「………っ!」


隣にいた男の指が伸び、僕の太腿に触れ……感触を確かめる様にスルリと滑る。

瞬間──置かれた状況を思い出し、背筋に冷たいものが走る。

「……逢いたかったぜ、姫」

顔を寄せられ、耳元に熱い息が掛かる。

「……はぁ、はぁ……
姫を食ってから、全然オンナで勃たなくなっちまってよォ、……ハァハァ……」
「……」
「オカマに手ェ出してみても、コイツの舌が肥えちまってて……ハァ、ハァ……姫じゃねーと、食いたくねぇんだってよ……」


……気持ち、悪い……


アルコールの混じった男の口臭が、容赦なく鼻を刺激する。顔をしかめながら伏せた目を男の方へと向ければ、男のもう片方の手が、布地を押し上げた自身のモノを擦っているのが見えた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

ヤクザに囚われて

BL
友達の借金のカタに売られてなんやかんやされちゃうお話です

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

短編集

田原摩耶
BL
地雷ない人向け

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...