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ハイジ編
49.
しおりを挟む鋭い視線──それが、僕から簡単に外される。
人が変わったかのような、ドス黒いオーラ。冷酷な横顔。
邪鬼を孕んだ眼が、真っ直ぐ前を見据えている。
───待って、ハイジ……!
立ち上がり、ウエイターの後について行くハイジに手を伸ばす。
その瞬間、ハイジが振り返る。
此方に向けられた眼は、既に闇色に支配され──僕を捉えながらも、僕など見えていない様子だった。
こうなってしまったハイジを……もう、止められる自信はない……
……だけど……
後悔の念に駆られ、苦しむハイジの姿も見たくない……
「……」
僕を制する、鋭い視線の圧。
それはほんの数秒──だけど確実に、僕の精神を串刺しにする。
動けなくなってしまった僕を残し、無言で背を向けるハイジ。
あの冷徹な瞳は、容赦なく誰かを傷付けようとする瞳だ……
「………ハイジ」
その背中に小さく声を掛ける。
もう一度手を伸ばし、引き止める勇気は……もうなかった。
「……さくら、いい子してろよ」
ハイジの低い声。
綺麗な白金の髪が、ゆらりと揺れる。
「………!」
問いかけに、答えてくれた……
たった、それだけ……
……だけどそこに、微かな希望が見える。
ハイジは……自分を見失ってない。
少しだけホッと胸を撫で下ろし、ドアの向こう側へと消えていくハイジの背中を見送った。
……パタンッ
ドアが閉まる。
瞬間、一変する空気。
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「……」
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「あー、クッソ……酔ってきた……」
「……飲みが足りねぇんじゃねーの?」
キラキラと輝く笑顔。楽しそうな雰囲気。
馬鹿みたいに騒いで、馬鹿みたいに笑って。見ているこっちまで、笑みが溢れてしまう。
その光景は、楽しかった溜まり場での生活の記憶を、簡単に掘り起こす。
……懐かしい……
そんな事を思いながら、食べかけの焼飯に手を伸ばした時だった。
「………っ!」
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瞬間──置かれた状況を思い出し、背筋に冷たいものが走る。
「……逢いたかったぜ、姫」
顔を寄せられ、耳元に熱い息が掛かる。
「……はぁ、はぁ……
姫を食ってから、全然オンナで勃たなくなっちまってよォ、……ハァハァ……」
「……」
「オカマに手ェ出してみても、コイツの舌が肥えちまってて……ハァ、ハァ……姫じゃねーと、食いたくねぇんだってよ……」
……気持ち、悪い……
アルコールの混じった男の口臭が、容赦なく鼻を刺激する。顔を顰めながら伏せた目を男の方へと向ければ、男のもう片方の手が、布地を押し上げた自身のモノを擦っているのが見えた。
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