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ハイジ編
47.
しおりを挟むあの時、僕にトラウマを植え付けた主犯格──そいつが今、目の前にいる。
「……お、太一じゃん!」
ハイジが太一に気付き、声を掛ける。
太一の眼が僅かに和らぎ、ハイジに笑みを返す。
「良かったなァ、ハイジ。……お姫サマが無事に見つかって」
「………うるせぇ」
「ハハ。……ていうか姫、随分とエロい格好してんじゃん……」
ハイジから僕に移る視線。
それがねっとりとイヤらしく、剥き出しになった僕の太腿を執拗に舐め回す。
「……」
ウイスキーか、ブランデーか。
グラスを傾け、琥珀色の酒に喉を鳴らす。
……こいつ……
身体は確かに、あの時の恐怖を覚えている。
だけど……腹の底から煮えたぎる怒りに、次第に心が支えられていく。
「ハァ?! 酔っ払って、コイツに手ェ出すンじゃねーぞ!」
「……バーカ。ヤる訳ねーだろ。俺はまだ、早死にしたくねーからな」
軽口を叩くハイジに、鋭い眼を向けたまま冗談めかす太一。
フンッと鼻を鳴らし、ハイジが顔を逸らすと、再びグラスを傾けた太一の口端が僅かに吊り上がるのが見えた。
ハイジに促され、奥の空いたソファに座る。隣に座る男をチラッと見れば、太一派──僕を輪姦したグループの一人だと気付く。
『リュウさん、ソイツらを……ボッコボコにしてたんッス』──モルの言葉が、脳裏を過る。
でも、その現場を直接見た訳じゃない。
もしそれが本当だったとしても、半年も経ってしまえば、そんな傷なんて跡形も無く消えてしまうだろう。
散らかったテーブルの上を、僕の隣に横に座ったハイジが雑に退かす。
「……」
ハイジは、僕と太一達の間に何があったのか……多分知らない。
隣の男が先程から、チラチラと僕の太腿に視線を落とす。
それに、不自然にソファの座面に着いた手……その小指の先が、僕の外腿に触れそうな程近い。
「……」
勝手に震えてしまう身体。
次第に感情だけが、切り離されていく。
……一体、どういうつもりなんだろう……
ハイジを裏切って。騙して。僕をあんな目に遭わせて。
それなのに……何食わぬ顔で、またハイジと連んでいるなんて……
怒りと嫌悪で、感情がぐちゃぐちゃに掻き乱される。
だけど……頭の中は妙に落ち着いていて、酷く冷静になっている自分もいる。
『お前はオレの女だけど、仲間じゃねーんだ。……あんまこっち側に首突っ込むな』──以前、ハイジが僕に言った台詞。
思い上がっているのは……僕の方かもしれない。
ハイジと太一の間には、僕とは違う……恐らくチーム結成からの強い絆があるんだろう。
だから太一は、自分の女をつまみ食いされた位で、ハイジがその絆を壊したりしないと自負しているのかもしれない。
「……」
緊張感の漂う空間。
でも、そう感じているのは……僕だけなのかもしれない……
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