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ハイジ編

44.フレンチ・キス

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×××


シャラ……

首輪に装飾された鎖が揺れる。

フード付きの黒パーカー。
デニムのショートパンツ。
カットソーも、インナーも、靴も。上から下まで全部、ハイジが新たに用意しそろえてくれたもの。

あの日のものは、全てハイジが処分してしまった……



ドゥンドゥンドゥン……

けたたましい音楽。
ディスコボールの光が店内を踊り狂い、人々の顔や身体を、様々な色──赤、緑、青、黄、と一瞬だけ染め上げる。

グラスを傾け、丸テーブルを囲んで談笑するグループ。馬鹿騒ぎをしたり、音に合わせて踊り出すグループ。露出度の高い服を身につけ、男性達を物色する女性グループ。

そんな人達を掻き分け、ハイジが店の奥へと進む。
その背中を僕は、必死で追い掛ける。






熱が下がり、すっかり体調が良くなると、ハイジに引っ張られ一緒に浴室へと入った。

『 ……もう、しねぇから 』──その言葉通り、そういう事は一切してこない。
イスに座らせた僕の髪を洗い、シャワーで洗い流してくれる。

……ひとりで、出来るから……

そう言った所で、ハイジは聞く耳を持たないだろう。
僕を必要以上に甘やかすのは、ハイジと付き合ってた頃と、何ひとつ変わらない……

こういうのに慣れていない僕は、何だか恥ずかしくて。擽ったくて……心が、なかなか落ち着いてくれない。

肩まで伸びきった髪。
それを後ろで纏め、簡単に水気を切る。
ふと顔を上げれば、ハイジが頭からシャワーを被っていた。

「……ハイジの髪、綺麗」

浴室の照明が、その濡れたハイジの無機質な白金をキラキラと輝かせていた。

「前にも、そんな事言ってたな」
「……うん」

初めて会った時から、人形の髪みたいに綺麗だな……って思ってた。

「コレ、元は白髪なんだよ」
「……え」
「気が付いたら、黒かった髪が見事に真っ白になっちまっててさ。伸びてももう、黒い部分が生えてこないんだぜ?
……だから。どーせなら、白金プラチナブランドにしてみよっかなぁーって」


……ハイジ……


胸の奥が、ズキンと痛む。
それだけハイジは、辛い目に──


──ザァァッ、


「……っ、」

少し伏せた顔に、容赦なくシャワーを掛けられる。

「んな顔すンなって!」

そう言って、僕に笑顔を向けた。



……のに。

「さくら……」

浴室を出て、バスマットの上に立った僕の髪を軽く拭いた後、バスタオルを僕の肩に掛けたハイジが、僕の胸元から脇腹辺りをじっと見る。

「………痩せたな」

憂いを帯びた声。浮き出た肋骨に手を伸ばし、そっと触れる。
洗濯板みたいになってしまったその溝を、ひとつひとつ確かめる様になぞりながら、寂しそうな眼を揺らす。

「なんか、……美味いもんでも食いに行くか」
「……」






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