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ハイジ編
42.
しおりを挟むきっと、あの時のハイジも……同じ眼の色をしていたんだろう。
「……」
カプセルを載せたまま、手のひらをきゅっ、と握る。そして視線を静かに下ろし、ぼんやりとケットに包まれた膝を見つめた。
「妬くなよ?」
「……ぇ」
ハイジの突然の言葉に驚き、顔を上げる。
「彼女はオレの、……初恋の相手だったんだ」
「……」
「……何だよその瞳は。少しは嫉妬しろよな」
真っ直ぐハイジを見つめていれば、直ぐに眼を逸らしてしまう。
その頬が、少しだけ赤い。
「………うん、わかった」
静かにそう答えると、ハイジが少しむくれた声を上げる。
「ったく、……全然してねェだろ!」
「…………」
「まぁ、いいや。………良くねぇけど」
気を失い、彼女の上に崩れる職員。
それを乱暴に足でどかし、ハイジは下敷きとなってしまった彼女に手を伸ばす。
……カタカタカタカタ
焦点の合わない瞳。
彼女の唇、肩、指先、両足が、まるで微量の電気を流されたかのように、小刻みに震えている。
「最初は、凌辱されたからだと思ってた。……でも、彼女は明らかに、オレに怯えててよ」
怒り、憎しみ、悲しみ。
其れ等の感情が入り乱れ、差し出した手を静かに下ろすと──金属バッドを握るハイジの手に力が籠もる。
………なん、で……だよ……
なんで助けたオレを、そんな瞳で見ンだよ………!!
『──う″ォおオ″ォぉォ″オッッ、!!』
室内に響き渡る、悲痛な雄叫び。
バッドの先を、大きく天に振り上げる。
全ての矛先は、助けようとしていた──彼女の顔面へ。
『………辞めとけ』
パシッ
背後から現れた手が、金属バッドを掴んで引き止める。
「──それが、龍成さんだったんだよ」
「……」
龍成は、彼女と同じ時期に入所。
中一にして暴走族。
万引き、カツアゲ、暴力、暴走行為、バイクの無免許運転等……補導や逮捕の数々を繰り返し、箔をつけていた。
手に負えなくなった龍成の両親が、更生の為に施設へ放流、というものだった。
施設には殆ど帰ってこない。
しかし、あの日あの時間に偶々戻ったのは──何か大事な用事があったからなのか。
それとも、単なる気まぐれだったのか……
「『俺が何とかしてやるから、お前はさっさと逃げろ』って、言われてさ……」
動揺したハイジから、龍成が冷静に金属バッドを取り上げる。
そのグリップを素手で握り、まるでゴルフの素振りのように何度もスイングする。
……ゴギャ、ドゴッ、
骨が砕ける様な、奇妙な音。
その鈍い音を背後で聞きながら、ハイジは振り返らず、暗闇へと続く廊下を走った。
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