36 / 179
ハイジ編
36.恩義
しおりを挟む×××
……熱い……
あのまま夜通し眠ってしまったからなのだろうか。
身体が鉛のように重く、呼吸が苦しい。
ゴホッゴホッ……
何かが詰まったように、呼吸をする度にゼロゼロと胸から音がする。ベッドに横になったまま身体をくの字に折り曲げ、何度も咳き込む。
視界がぼんやりとし、熱くて熱くて……耳が塞がったように、ぼーっとする。なのに、ゾクゾクと寒気がして鳥肌が立つ。
薄手のケットを引っ張って頭まで被る。
「……これ、食えるか?」
ベッドに腰を掛けたハイジが、心配そうに声を掛けながら、ぺらっとケットを捲る。
僕の顔を上から覗き込むその:表情(かお)は、僕の知ってる……ハイジ……
「……」
壊れ物にでも触るかのような、優しくて繊細な瞳。何も言わず視線を逸らせば、少しだけ落ち着かない様子のハイジが視野に映る。
「………その、悪ぃかった」
「……」
「これからは、大事にすっから……」
手にしていたインスタントのカップ雑炊を、プラスチックスプーンでクルリと掻き混ぜる。湯気が立ち込め、食欲を刺激する特有の匂いが辺りに漂う。
「……さくら……」
「……」
「兎に角、これ食ってくれよ……」
サイドテーブルには、市販の風邪薬と500mlのミネラルウォーター。
そして、栄養ドリンク。
明け方──
ようやく帰ってきたハイジが、酷く咳き込む僕に気付いて駆け寄った。
手錠を外し、ティッシュで簡単に性行為の後処理をした後、僕に下着を履かせる。
それからまた直ぐに部屋を飛び出し、コンビニの袋をぶら下げて戻ってきたのだ。
「……」
「んな、恨めしそうな顔すんなって」
諦めたのか。軽い溜め息をつき、カップ雑炊をサイドテーブルにそっと置く。
スッと手を伸ばし、僕の横髪にそっと触れる。だけど、その指は何処か迷いがあり、不安げに震えていた。
「……」
それを振り払うこともせず、僕は無言のまま静かに触らせていた。
「……もう、しねぇから」
その指が髪に絡み、不器用に梳く。
不意に触れた耳。その耳殻をそっと摘み、縋るような声を出す。
……ハイジ……
胸の奥がぎゅっと締め付けられ、苦しくなる。
「………ずっと、待ってたんだよ……これでも」
視線を逸らしたまま、小さく唇を動かす。喉がザラザラし、出した声が自分のものじゃないみたいで……何だか変……
「………ゴホッ、ゲホッ」
背中を丸め、激しく咳き込む。
と、耳に触れていたハイジの手が離れ、僕の背中に当てられる。
「……大丈夫かよ」
ケットの上から、ハイジが背中を擦ってくれる。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
夏休みは催眠で過ごそうね♡
霧乃ふー 短編
BL
夏休み中に隣の部屋の夫婦が長期の旅行に出掛けることになった。俺は信頼されているようで、夫婦の息子のゆきとを預かることになった。
実は、俺は催眠を使うことが出来る。
催眠を使い、色んな青年逹を犯してきた。
いつかは、ゆきとにも催眠を使いたいと思っていたが、いいチャンスが巡ってきたようだ。
部屋に入ってきたゆきとをリビングに通して俺は興奮を押さえながらガチャリと玄関の扉を閉め獲物を閉じ込めた。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる