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プロローグ
17.
しおりを挟む振り返れば、そこには背の高い痩せ型の男性が立っていた。
大学生……二十歳くらいだろうか。毛先が緩くカールした、柔らかそうな細い茶髪。面長。瞳は大きく、やや垂れ目。
全体的に優しげな雰囲気は、何処となく化学教師──浅間に似ていた。
「……あ、俺同じアパートの……隣の部屋に住んでる、吉岡っていいます」
「……」
話しながら微笑む吉岡。柔らかな雰囲気を保ちつつ、より優しげになり、下ろした長い睫毛がよく目立つ。
「米運ぶの、大変ですよね。わかります」
売り場に積まれた米袋を見ながら、親しげに僕のパーソナルスペースに侵入してくる。
その人懐っこさというか、図々しさというか……吉岡のその態度に、一気に嫌な気分に変わる。
「……あ、良かったら俺運びますよ! こう見えて、力はあるんで!」
「……」
いくら隣に住んでいるとはいえ、よく知りもしない相手にここまでするものなんだろうか。
「あー、遠慮しなくていいんで!」
半ば強引に圧され、僕は嫌悪を露わにして吉岡を見上げる。
……一体、何のつもりですか?
口には出さずに睨んだ後、直ぐに立ち去る。
会計を済ませ買い物袋をぶら下げ外に出ると、あんなに青空が広がっていた空が、灰色の厚い雲で覆われていた。
……急いで帰らなくちゃ。
洗濯物を干したままだったのを思い出し、地面を蹴って走る。
ザァァ───!
案の定、バケツをひっくり返したような激しい雨に襲われ、濡れた白Tシャツが肌に張り付いて透けてしまう。
ジーンズのウエストが緩かった事もあり、下着までぐっしょり濡れて気持ち悪い。
……最悪だ……
廊下に濡れた買い物袋を置き、床に小さな水溜まりを幾つも残してベランダへと向かう。
すっかり雨に打たれた洗濯物を急いで取り込むと、深い溜め息をひとつつく。
洗い直しのそれらを纏め、洗面所へ向かい洗濯機の中へと放り込む。ついでに着ている服も全て脱いで、その中に入れた。
浴室のドアを開け中に入る。
濡れたせいで肌寒く、熱いシャワーを頭から浴びる。
……ああ、もう……
全てを台無しにされた気分……
目を瞑り、顎を少し上げる。
濡れて貼り付く髪。肌を伝う水流に擽られ、ゾクリと身体が震える。
「……」
昨日の記憶を追い掛け、竜一に付けられた首筋の痕をそっと指で触れる。
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