君の優しい嘘

真田晃

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待ち合わせの駅で、凪と会った。
凪は相変わらず格好良くて。僕を待っている間に、女の子のグループから声を掛けられていた。


「水族館に僕となんて、本当に良かったの?」
「……うん。理央とだから、来たかったんだよ」
「……」

凪は、男の僕でもドキッとするような台詞をサラリと言う。
僕が知らないだけで……普段の凪は、仲の良い女の子達にもこんな台詞を吐いたりするのかな……
駅で凪を取り囲む女の子達を思い出し、胸の奥がズクン…と痛んだ。
……何だろう、この気持ち。


駅から程近い水族館。
カップルや家族連れが多い中、男二人が肩を並べ、案内マップを見ながら順路に沿って歩く。
幾つも並ぶ水槽のひとつひとつを凪と一緒に覗き込み、指を差して笑い合う。
トンネル水槽をくぐり、サメや回遊魚のいる大きな水槽の前に辿り着いた時には、あのモヤモヤとした気持ちはすっかり無くなっていた。





「……綺麗だね」
「うん……」

水槽の前に、凪と二人で並ぶ。
ふわり、ゆらり、と水中に浮かぶのは、蒼白く透き通ったクラゲ達。
水槽内の光を浴び、涼しげで優雅に漂う姿は、何とも幻想的で………

「何時間でも見ていられるよ」
「……うん」

凪の言葉に生返事をした後、ふと我に返って隣に視線を移す。


──ドキンッ

優しげな凪の黒瞳が、真っ直ぐ僕を捕らえていた。


もしかして凪、……クラゲじゃなくて、ずっと僕を……?

そんな事、ある訳ないのに。
そう思ってしまったら、急に恥ずかしくなって。慌てて視線を水槽に戻した。


「……」

ふわふわとする、無数のクラゲ。
ゆらゆらと水中の光が揺れ、僕と凪も、その一部に取り込まれたような、不思議な感覚に陥る。


不意に。
僕の指先に、凪の指先が絡まり。
手のひらに、凪の手のひらが重なる。

熱くなった手のひら。
どくん、どくん、どくん……と、心臓が鼓動を打つ。
指先に感じる、甘い痺れ。


「……理央」

僕だけに聞こえる、凪の声。

「好きだよ、理央」

その声はとても甘くて。
僕の心を、切なく震わせた。





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