君の優しい嘘

真田晃

文字の大きさ
上 下
4 / 9

4

しおりを挟む
五時間目の授業は、移動教室だった。
それをすっかり忘れてふらふらとしていた僕は、チャイムの数分前になってようやくそれに気付き、慌てて教室に戻る。


──ガラッ


「……っ!」

ドアを開けた先に見えたのは、窓から射し込む眩い光に溶け込んだ、凪──

凪は相変わらず綺麗で。
サラサラとした髪の毛一本一本までもが、神々しく輝いて見える。

教科書とノートを抱えた凪は、最後まで僕の方を見る事なく教室から出ていく。
校外で会う凪とは違う……鋭い目を真っ直ぐ前に見据え、近付き難いオーラを放ちながら。

「……」


……あれ……

さっき落としたのだろうか。凪の机の足元に、筆箱が落ちていた。


「……なぎ……、高波くん……!」

拾い上げ、慌てて追い掛ける。
特別教室に行ってしまったら、きっと渡せなくなってしまうから。

廊下に出ると、僕の声が届いていたのか……凪が振り返ってこっちを見ていた。
まだ近くには、違うクラスの生徒がチラホラといる。──それに、塚原まで……

「……あの、これ……」
「………」


バッ、

奪うようにして、凪が僕から筆箱を取り上げる。
僕を突き刺すような、冷たく鋭い眼光。

「……」


……理央。
僕の名を呼び、優しく穏やかな瞳を向ける凪は、ここにはいない。
いないんだ──

思い知らされる、僕の立ち位置。
俯いた僕に何も言わず、凪が塚原と共に背を向ける。

奪い取られた時の感触が、まだ指先に残ってびりびりと痺れた。






「……どうしたの、理央」

公園のベンチに座り肩を落とす僕に、凪が声を掛けてくる。昼間の出来事なんて、もう忘れてしまったみたいに。

「元気ないみたい……」

隣に座り、間近で僕の顔を覗き込んでくる。
その距離の近さが、今は辛い。
自分の立場を守りたいのなら、もう僕に関わらなくたっていいのに……

……あ……
もしかして、凪も……
塚原と同じで……揶揄ってんのかな……
罰ゲーム、だったりするのかな……

友達だと油断した途端、いきなり手のひらを返したり……するのかな……


「……ごめん」
「え……」
「学校で……声、掛けちゃって」
「……」
「もう……僕に構わなくて、いいから……」

凪から、視線を逸らす。
喉がギュッとしまって、苦しい。
やっとの事で絞り出した声は、少しだけ嗚咽が混じってしまい……


「そんな事、言わないで……理央」

凪の、切なく震える細い声。
驚いて顔を上げれば、凪の綺麗な瞳が潤み、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「理央と、離れたくない」
「………なぎ……?」
「……ごめん、理央」
「………」
「学校では……優しくできない、僕で……」
「……」

凪の立場は、解ってる。
僕と仲良くしてるのを見られたら、凪も巻き添えになるかもしれないって。
……ごめんね、疑って。
解ってるよ。


「……明日、一緒にクラゲを見に行こう」

長い睫毛を濡らした凪が、そう言って僕に柔く優しく目を細めた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

絵葉書 -君がくれた、この想いは…-

真田晃
青春
一通の絵葉書が届いた。 どうして。いつもは手紙なのに…… 書かれた文面に胸騒ぎを覚えた俺は、顔も知らない彼に、会いに行く。 ※BL要素は薄いです。 ※表紙絵は、フリーイラストをお借りしております。(規約により此方に記載) フジョッシー様『5分で感じる初恋BL』コンテスト応募作品。

君の隣の席、いいかな?

華周夏
BL
たまたまキノコ採りの途中、森の中の小さな家に雨宿りさせてもらったときの話。不思議な青年の、話。 忘れていた記憶が甦る。。。 ───────────── それから青年を思いだし、隣に座って一緒に図書室でキノコや野草の本を読んだことから始まる、キノコに関する少し不思議な短編集。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

キミの次に愛してる

Motoki
BL
社会人×高校生。 たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。 裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。 姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

処理中です...