双葉の恋 -crossroads of fate-

真田晃

文字の大きさ
上 下
22 / 62

刃物 ピアス 三秒間

しおりを挟む
「ごめん、悪かったって」

少し慌てた悠が、僕の前髪に手を伸ばす。そっと触れる指。
石鹸の香りに混じって、悠の匂いがふわりとする。

夏の太陽の下、潮風を浴びた様な……
上手く言えないけど、心の奥を甘く締め付ける……僕の、好きな匂い。
その匂いと触れられる心地良さに、悠へ気持ちが湧き上がってくるのを感じる。
……そんなの、ダメなのに……

離れていく指先。
消えていく感触に淋しさが募り、濡れた瞳のまま悠を見上げれば……

「……」

薄く瞳を閉じた悠の唇が舞い降り、そっと目尻に落とされる。咄嗟に閉じた瞳から、溢れた涙を受け止めるかのように。

たった、三秒間──だけど、もっと長く感じる……


……ゆう……

間近で僕を見下ろす双眸。
右耳にある十字架のピアスが、朝陽に当たって煌めく。
それは、悠が初めての給料で買ったもので。もう片方を、僕にプレゼントしてくれたんだっけ……
でも僕は、ピアスホールなんてないし。空ける予定もなく、一度もつける事はなかったけど……


「寒くなってきたから、入っていい?」

悠が、掛け布団を大きく捲り上げる。

「……やだっ!」
「風邪引く、マジで」
「入ってきたら、……刺すからね」

横になったまま、刃物を構える格好をしてみせる。すると悠が、ふっふっふっ……と肩を揺らし……

「……いつも言ってんじゃん。刺すのは、俺の方だから!」

そう言って、悠がダイブしてくる。
慌てて掛け布団を引っ張り上げ、何とか侵入を阻止すれば、「入れて!」と強引に入り込もうとする。僕に愛しい八重歯を見せながら。

「もぅ、ゃだったら……!」


別れた筈なのに──まるで恋人だった頃と変わらない、悠の態度。
それに戸惑いと懐かしさを感じながら……今までが悪い夢で、今が現実なんじゃないか……
そんな錯覚を、起こしてしまっていた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

身代わりで帝国の第2皇子に嫁いだ庶民派冒険者王子の話。

BL / 完結 24h.ポイント:262pt お気に入り:426

ペントハウスでイケメンスパダリ紳士に甘やかされています

BL / 完結 24h.ポイント:276pt お気に入り:978

不倫の片棒を担がせるなんてあり得ないだろ

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:196

あやかし骨董店きさら堂の仮の主人

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:42

既婚男性がカフェの美人店員に一目惚れしたら

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:13

イケナイ関係

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。2

BL / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:865

処理中です...