10 / 62
空 迷信 魅惑
しおりを挟む「んな顔すんなって」
悠が、目の前に立つ。
僕と同じ低身長ながら勝ち気なその表情に、可愛らしさは微塵も感じられない。
僅かに熱を宿した瞳が、僕を覗き込む。悪戯っ子のように笑みを浮かべる唇。距離を詰め、スッと僕の耳元に寄せる。
「……キス、したくなるだろ」
「──!」
毛先から耳朶に掛かる、悠の柔い吐息。
『 ……俺の名前を呼ぶ度、唇がキスの形になってる』──あの時の台詞が、脳内でフラッシュバックする。
耳に吹き込まれる、熱い吐息。恥ずかしさが込み上げ、顔まで熱が伝わっていく。
手で耳を覆い、悠から一歩後退った。
新しい恋を始めようとすると、元彼から連絡が来る、なんて──そんな迷信じみた話を、何処かで聞いた事があったけれど……
一体悠は、どういうつもりで僕に連絡してきたんだろう。
僕に、どうしたいと思って……
「番号、変わってなくて助かったぜ」
徐に取り出した携帯を、掲げてみせる。その左手の薬指には、キラッと光るマリッジリング。
視界に映るそれを複雑な気持ちで見つめた後、直ぐに視線を逸らす。
「……」
「それより、腹空かねぇ?」
携帯を再びポケットに仕舞いながら、僕の顔色を伺うように覗き込む。
近すぎる距離。悠の首元から微かに漂う、魅惑的な香り。悠の匂い。
懐かしさが込み上げ、きゅんと胸が締め付けられる。
「オムライス、食いに行こうぜ」
「……え」
「いつも行ってた店あんだろ。……そこいこ」
僕の意見も聞かず、悠が僕の手を掴んで引っ張る。
「……え、ちょっと……悠……待って……、」
それに抵抗してみせれば、振り返った悠が意地悪く笑い、チラリと八重歯を僕に見せる。指を交差させて握り直し、ギュッと強く握り込む。
「……」
こういう……力強くて、強引に僕を引っ張っていってくれる所が……好きだった──
悠の隣は、いつだって居心地が良くて……明るくて、温かくて、まるで陽だまりの中にいるようで……
あの時の僕は、この先もずっと……悠の隣に居られると、思ってたんだよ……
「………待って、悠……」
……でも、突然。理由も解らず切り捨てられて。
今までずっと、どんな思いで……
どうやって心の整理をして、悠を諦めたかなんて……解ってない……
全然、解ってない。
……ずるいよ、悠……
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
ハッピーエンド
藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。
レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。
ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。
それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。
※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。
桜吹雪と泡沫の君
叶けい
BL
4月から新社会人として働き始めた名木透人は、高校時代から付き合っている年上の高校教師、宮城慶一と同棲して5年目。すっかりお互いが空気の様な存在で、恋人同士としてのときめきはなくなっていた。
慣れない会社勤めでてんてこ舞いになっている透人に、会社の先輩・渡辺裕斗が合コン参加を持ちかける。断り切れず合コンに出席した透人。そこで知り合った、桜色の髪の青年・桃瀬朔也と運命的な恋に落ちる。
だが朔也は、心臓に重い病気を抱えていた。
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。
友人とその恋人の浮気現場に遭遇した話
蜂蜜
BL
主人公は浮気される受の『友人』です。
終始彼の視点で話が進みます。
浮気攻×健気受(ただし、何回浮気されても好きだから離れられないと言う種類の『健気』では ありません)→受の友人である主人公総受になります。
※誰とも関係はほぼ進展しません。
※pixivにて公開している物と同内容です。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる