8 / 62
雨 絵の具 不安
しおりを挟むサァァァ……
駅前にある大型ショッピングモール。
建物の入り口に辿り着いた所で、突然降り出した雨。
その雨足は次第に強くなり、モール前にある多彩なイルミネーションの光が、濡れたアスファルトに反射して滲んでいく。
まるで、絵の具を流し込んだかように……
待ち合わせ場所は、最上階にある映画館の入り口前。
デート、ではないものの……昨日まで名前も知らなかった相手と、一緒に映画を観る事になるなんて……
白の長袖プリントシャツに、黒のダウンジャケット。ジーンズ。紺と白のチェック柄マフラー。
アパートとバイト先の往復のみで、特に服装には気を遣って来なかったけど……
こんな事なら、もう少しお洒落をしてくるんだった……と、今更ながら後悔。
エレベーターを探しながら館内を歩く。緊張から、マフラーをキュッと掴んだ。
ブブブ……
突然、携帯が震えた。
ビクンと小さく肩が跳ね、慌てて携帯を取り出す。
……誠さん、もう着いたのかな……
心臓が早鐘を打つ中、携帯の画面を覗けば、そこに表示されていたのは……
「──!」
悠──
蘇る、留守電の声。
押し込めた筈の感情が思い出され……僕の心を意地悪く揺さぶる。
……どうして……
突然僕を捨てて、他の人と結婚までしたのに……
今更、僕に逢いたい……なんて……
足元の床が、ぐにゃりと歪む。
平行感覚を失い、立っていられない……
携帯を持つ手の指先が、痺れる。
息が……苦しい……
片手を胸に押し当て、何度も何度も繰り返す、深呼吸。
……ダメ、出ちゃ……駄目……
過呼吸に変わっていくのを必死で抑え、尚もコールし続ける携帯を、そのままポケットに仕舞おうとした。
「……何、無視してんだよ!」
背後から聞こえたのは、懐かしい声。
……え、嘘……
驚きを隠せないまま振り返れば──携帯を耳に当て此方に向かってくる、悠の姿が。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
俺の幼馴染はストーカー
凪玖海くみ
BL
佐々木昴と鳴海律は、幼い頃からの付き合いである幼馴染。
それは高校生となった今でも律は昴のそばにいることを当たり前のように思っているが、その「距離の近さ」に昴は少しだけ戸惑いを覚えていた。
そんなある日、律の“本音”に触れた昴は、彼との関係を見つめ直さざるを得なくなる。
幼馴染として築き上げた関係は、やがて新たな形へと変わり始め――。
友情と独占欲、戸惑いと気づきの間で揺れる二人の青春ストーリー。
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
記憶喪失から始まる、勘違いLove story
たっこ
BL
事故に遭い目が覚めると、自分が誰かもわからなくなっていた陽樹。同居していたという同僚の月森との生活を始める。
職場でも家でも一緒、さらに休日までも一緒に過ごしているうちに、陽樹は月森を意識し始める。
そんなとき、月森に振られた記憶を不意に思い出して……。
●年齢制限ありの回は ※
軽い表現の回は * を表示します。
描写は物語の終盤になる予定です。
《今作品は完全に不定期の更新となります。ご了承くださいませ》
Endless Summer Night ~終わらない夏~
樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった”
長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、
ひと夏の契約でリゾートにやってきた。
最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、
気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。
そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。
***前作品とは完全に切り離したお話ですが、
世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
その日君は笑った
mahiro
BL
大学で知り合った友人たちが恋人のことで泣く姿を嫌でも見ていた。
それを見ながらそんな風に感情を露に出来る程人を好きなるなんて良いなと思っていたが、まさか平凡な俺が彼らと同じようになるなんて。
最初に書いた作品「泣くなといい聞かせて」の登場人物が出てきます。
※完結いたしました。
閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。
拙い文章でもお付き合いいただけたこと、誠に感謝申し上げます。
今後ともよろしくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる