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雨 絵の具 不安
しおりを挟むサァァァ……
駅前にある大型ショッピングモール。
建物の入り口に辿り着いた所で、突然降り出した雨。
その雨足は次第に強くなり、モール前にある多彩なイルミネーションの光が、濡れたアスファルトに反射して滲んでいく。
まるで、絵の具を流し込んだかように……
待ち合わせ場所は、最上階にある映画館の入り口前。
デート、ではないものの……昨日まで名前も知らなかった相手と、一緒に映画を観る事になるなんて……
白の長袖プリントシャツに、黒のダウンジャケット。ジーンズ。紺と白のチェック柄マフラー。
アパートとバイト先の往復のみで、特に服装には気を遣って来なかったけど……
こんな事なら、もう少しお洒落をしてくるんだった……と、今更ながら後悔。
エレベーターを探しながら館内を歩く。緊張から、マフラーをキュッと掴んだ。
ブブブ……
突然、携帯が震えた。
ビクンと小さく肩が跳ね、慌てて携帯を取り出す。
……誠さん、もう着いたのかな……
心臓が早鐘を打つ中、携帯の画面を覗けば、そこに表示されていたのは……
「──!」
悠──
蘇る、留守電の声。
押し込めた筈の感情が思い出され……僕の心を意地悪く揺さぶる。
……どうして……
突然僕を捨てて、他の人と結婚までしたのに……
今更、僕に逢いたい……なんて……
足元の床が、ぐにゃりと歪む。
平行感覚を失い、立っていられない……
携帯を持つ手の指先が、痺れる。
息が……苦しい……
片手を胸に押し当て、何度も何度も繰り返す、深呼吸。
……ダメ、出ちゃ……駄目……
過呼吸に変わっていくのを必死で抑え、尚もコールし続ける携帯を、そのままポケットに仕舞おうとした。
「……何、無視してんだよ!」
背後から聞こえたのは、懐かしい声。
……え、嘘……
驚きを隠せないまま振り返れば──携帯を耳に当て此方に向かってくる、悠の姿が。
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