闇夜 -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る3-

真田晃

文字の大きさ
上 下
51 / 56

51.

しおりを挟む


……そう、言っていたのに。
何を思ったのか。電話を掛けて直ぐ、モルが僕に携帯を寄越す。
戸惑いながらも受け取り、怖ず怖ずと耳に当てれば──

『……元宮か』

鼓膜に響く、竜一の低い声。
太くて、甘くて……何処か落ち着き払ったその声に、トクンと胸の奥が疼く。

『世話かけたな。……さくらを、宜しく頼む』

静かで、穏やかな息遣い。
直ぐそこに、竜一がいるようで。心地良さを感じながらも、包み込む温もりの無さに……淋しくて震えてしまう。

「……」

どうせまた僕を見離すのなら、最初から優しくしないで。
思わせぶりな態度なんて、しないでよ。

……もう、放っておいて。

いっそ冷たく突き放して、もう二度と……僕の前に、現れないで……!


心にもない言葉を並べ立て、心に壁を造る。もうこれ以上、傷付かないように。

そうする事でしか、自分を保てない。
自分を、守っていけない。


思い返せばいつも、そうやってやり過ごしてきた。
気持ち悪い程の笑顔を向け、僕に近付いてくる奴等を、捻くれた目で見ながら心の中で突っぱねていた。

その中には、純粋に僕と仲良くしたいと思っていた人がいたかもしれない。
だけど、それを確かめる術がなくて。……怖くて。

心を守るので精一杯だった。
……不確かなものは全て、そうやって排除してきた。

でも。本当は……その大きな手を差し伸べられたい。
安全な境界線を踏み越えて、僕の直ぐ傍まで来てくれたのなら……尚更……

「……」

目頭が熱くなり、涙で視界が滲む。切なく心が震え、苦しい程に胸が締め付けられる。


『さくらに伝えてくれ。──"カタがついたら、お前のいる世界に戻る"ってよ』

吐息混じりの、穏やかな声。
車に乗っているんだろう。ゴォーッという風を切るような特有の音に混じり、時折カーステレオの雑音が電話越しに聞こえる。


『──なんてな。お前、さくらだろ』


……え……


言い当てられて、トクンと胸が高鳴る。その鼓動は速くなり、僕の中で何かが息づく。

もしかして、最初から解ってて……

何て答えたらいいか、解らなくて。くいっと涙を拭い、耳を澄ませていれば──



『愛してる、さくら』



ふわりと外耳を擽る、柔らかな声。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...