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しおりを挟む……そう、言っていたのに。
何を思ったのか。電話を掛けて直ぐ、モルが僕に携帯を寄越す。
戸惑いながらも受け取り、怖ず怖ずと耳に当てれば──
『……元宮か』
鼓膜に響く、竜一の低い声。
太くて、甘くて……何処か落ち着き払ったその声に、トクンと胸の奥が疼く。
『世話かけたな。……さくらを、宜しく頼む』
静かで、穏やかな息遣い。
直ぐそこに、竜一がいるようで。心地良さを感じながらも、包み込む温もりの無さに……淋しくて震えてしまう。
「……」
どうせまた僕を見離すのなら、最初から優しくしないで。
思わせぶりな態度なんて、しないでよ。
……もう、放っておいて。
いっそ冷たく突き放して、もう二度と……僕の前に、現れないで……!
心にもない言葉を並べ立て、心に壁を造る。もうこれ以上、傷付かないように。
そうする事でしか、自分を保てない。
自分を、守っていけない。
思い返せばいつも、そうやってやり過ごしてきた。
気持ち悪い程の笑顔を向け、僕に近付いてくる奴等を、捻くれた目で見ながら心の中で突っぱねていた。
その中には、純粋に僕と仲良くしたいと思っていた人がいたかもしれない。
だけど、それを確かめる術がなくて。……怖くて。
心を守るので精一杯だった。
……不確かなものは全て、そうやって排除してきた。
でも。本当は……その大きな手を差し伸べられたい。
安全な境界線を踏み越えて、僕の直ぐ傍まで来てくれたのなら……尚更……
「……」
目頭が熱くなり、涙で視界が滲む。切なく心が震え、苦しい程に胸が締め付けられる。
『さくらに伝えてくれ。──"カタがついたら、お前のいる世界に戻る"ってよ』
吐息混じりの、穏やかな声。
車に乗っているんだろう。ゴォーッという風を切るような特有の音に混じり、時折カーステレオの雑音が電話越しに聞こえる。
『──なんてな。お前、さくらだろ』
……え……
言い当てられて、トクンと胸が高鳴る。その鼓動は速くなり、僕の中で何かが息づく。
もしかして、最初から解ってて……
何て答えたらいいか、解らなくて。くいっと涙を拭い、耳を澄ませていれば──
『愛してる、さくら』
ふわりと外耳を擽る、柔らかな声。
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