49 / 56
49.
しおりを挟む担がれたまま、部屋を出る。
ダイニングテーブルと応接ソファの間にある広いスペースで、見るからにガラの悪そうな男達が凌と水神を取り囲んでいた。
その脇を通り過ぎ、キッチンスペースの入り口とは反対側にあるシャワールームのドアを、竜一が器用に開ける。
「……脱げ」
脱衣所の床に下ろされて直ぐ、身体に纏っていたシーツを引っ剝がされる。
肌の表面を擦りながら、スルリと足元に落ちるそれ。見れば点々と、鮮血が生々しく滲んでいた。
カチャン、
浴室のドアを開いた竜一に、半ば強引に押し込められる。
……もしかして……
思い出される、ハロウィンの夜の出来事。ホテルの浴室での行為。
淡い期待を抱きつつ、奥へと進んでいけば、突然、ぴしゃりと閉められるドア。
「……」
……息が止まる。
拒絶されたようで、胸が締め付けられる。
振り返らなくたって解る。もうそこに、竜一の姿はないって。
ザァァ……
落胆する手でコックを捻り、熱いシャワーを頭から被る。
肌を纏いながら流れ落ちる湯水。頬や額に張り付く髪。ぽたぽたと毛先から垂れる雫。……まるで、僕の代わりに涙を流しているみたい。
身体に残る、竜一の温もり。
トクトクと震える心音。
大きな手。息遣い。
心地よい……竜一の匂い。
もっと、竜一に触れられたかった。
痛くされてもいいから……あの時みたいに、僕を……
ザァァァ……
寂しそうに震える身体を、ギュッと抱く。
「……」
……解ってる。
僕を助けてくれたのは、僕がアゲハの弟だからだ……
そう頭では解っていても、心が追いついていかなくて。こんなに冷たく突き放されても……まだ、心の何処かで淡い期待を抱いてしまう。
……そんなの、苦しいだけなのに。
「……あ、」
シャワールームを出ると、脱衣所にモルの姿があった。
「すいませんっ。着替えを、持ってきただけッス」
一糸纏わぬ姿の僕に、サッと背を向ける。
棚に置かれたのは、折り畳んだ服と下着。襲われた時の衝撃が襲い、ブルッと身体が震える。
「それと、リュウさんから言伝を預かってます」
バスタオルを取り、身体を拭いていれば、此方に背を向けたままモルが続けて言う。
「『お前の世界に帰れ』って」
……え……
再び突き放され、胸の奥が抉られる。
「……」
じわりと滲む視界。眼の際が次第に熱くなり、次々と大粒の涙が零れ落ちていく。
「──だ、大丈夫ッスか?! どこか、痛むんスか……?」
異変に気付いたモルが振り返り、慌てた様子で僕に話し掛ける。
「……」
何でもない──そう言いたいのに。中々言葉が出なくて。
ただ横に、頭を振る事しか出来なかった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる