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担がれたまま、部屋を出る。
ダイニングテーブルと応接ソファの間にある広いスペースで、見るからにガラの悪そうな男達が凌と水神を取り囲んでいた。

その脇を通り過ぎ、キッチンスペースの入り口とは反対側にあるシャワールームのドアを、竜一が器用に開ける。

「……脱げ」

脱衣所の床に下ろされて直ぐ、身体に纏っていたシーツを引っ剝がされる。
肌の表面を擦りながら、スルリと足元に落ちるそれ。見れば点々と、鮮血が生々しく滲んでいた。

カチャン、
浴室のドアを開いた竜一に、半ば強引に押し込められる。

……もしかして……

思い出される、ハロウィンの夜の出来事。ホテルの浴室での行為。
淡い期待を抱きつつ、奥へと進んでいけば、突然、ぴしゃりと閉められるドア。


「……」


……息が止まる。

拒絶されたようで、胸が締め付けられる。
振り返らなくたって解る。もうそこに、竜一の姿はないって。



ザァァ……
落胆する手でコックを捻り、熱いシャワーを頭から被る。
肌を纏いながら流れ落ちる湯水。頬や額に張り付く髪。ぽたぽたと毛先から垂れる雫。……まるで、僕の代わりに涙を流しているみたい。

身体に残る、竜一の温もり。
トクトクと震える心音。
大きな手。息遣い。
心地よい……竜一の匂い。

もっと、竜一に触れられたかった。
痛くされてもいいから……あの時みたいに、僕を……

ザァァァ……

寂しそうに震える身体を、ギュッと抱く。

「……」

……解ってる。
僕を助けてくれたのは、僕がアゲハの弟だからだ……

そう頭では解っていても、心が追いついていかなくて。こんなに冷たく突き放されても……まだ、心の何処かで淡い期待を抱いてしまう。

……そんなの、苦しいだけなのに。




「……あ、」

シャワールームを出ると、脱衣所にモルの姿があった。

「すいませんっ。着替えを、持ってきただけッス」

一糸纏わぬ姿の僕に、サッと背を向ける。
棚に置かれたのは、折り畳んだ服と下着。襲われた時の衝撃が襲い、ブルッと身体が震える。

「それと、リュウさんから言伝を預かってます」

バスタオルを取り、身体を拭いていれば、此方に背を向けたままモルが続けて言う。

「『お前の世界に帰れ』って」


……え……


再び突き放され、胸の奥が抉られる。

「……」

じわりと滲む視界。眼の際が次第に熱くなり、次々と大粒の涙が零れ落ちていく。

「──だ、大丈夫ッスか?! どこか、痛むんスか……?」

異変に気付いたモルが振り返り、慌てた様子で僕に話し掛ける。

「……」

何でもない──そう言いたいのに。中々言葉が出なくて。
ただ横に、頭を振る事しか出来なかった。








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