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しおりを挟む「もう、凄かったんッスよ!? 『俺の女に何してんだ!』って、怒鳴り込んできて。……こう、こうやって、片手で男の頭を掴んで──」
「……」
「とにかく、マジで凄かったんッスからっ! やっぱリュウさんは、格好ぇッス!!」
ジェスチャーを交えながら、興奮した様子でその状況を熱く語る。
「……あ、」
その時掴んだ、ハンディカメラ。
その存在に気付いた途端、しゅんと萎れ、申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「さっきは……すいませんッス。
データは全部消去したンで……そこは安心して下さいッス」
そう言って、モルがベッドサイドへと視線を向ける。乱雑に置かれた、ハンディカメラ数台。開いたままのノートパソコン。
『俺、姫だけが希望なんで!』──喫茶店での別れ際、向日葵のように明るい笑顔を見せてくれたモル。
……あの時の言葉は、嘘なんかじゃ無かったんだ……
『あの人、人当たりが良くていい人そうに見えるんスけど。何考えてるかわかんねートコ、あるんスよ。……だから、あんまり深入りしない方がいいッス』
思い返してみれば、全部……僕の為だった。
僕が凌の女かもしれないと思いながらも、告げ口される覚悟で、僕に──
「……!」
『アイツは、さくらが思ってるような奴じゃない!』
必死な形相で、僕に訴えかけるハルオの姿が、一瞬脳裏を過る。
「……」
ハルオも……最初から僕を、助けようとしてくれてた。
撮影所でも、僕を逃がしてくれて──
胸の奥がズキンと痛む。
──ガチャッ
思考を遮るように開くドア。
見ればそこには、ガタイの良い存在感のある人物が立っていた。
ヤクザらしい、オールバックに黒の高級スーツ。刺々しい雰囲気。強いオーラ。
ガラス玉のような焦茶色の眼が、目を見張る僕の角膜に収まれば……トクン、と甘く心臓が跳ねる。
……竜一……
本当に……来てくれた、んだ……
「まだ、寝ていたのか」
その余韻に浸っていれば、じっと僕を見据えた竜一が、ボソリと吐き捨てる。
「……、!」
慌てて起き上がろうとして、全身に痛みが走る。
情けない程動けずにいれば、痺れを切らしたんだろう。部屋の中へと足を踏み入れ、直ぐ傍まで来た竜一が、横たわる僕の身体を軽々と抱え上げる。
「──ッ、!!」
垂れ下がる、白いシーツ。
背中と膝裏に腕を回され、竜一の胸の前に抱きかかえられたそれは──
羞恥で熱くなる頬。
トクトクと高鳴る心臓。
戸惑いを隠せずにいれば、口の片端を持ち上げた竜一が、意地悪げに僕を見下ろす。
「どうやらお前は、“姫”らしいからな……」
そう言った後、事の成り行きを見守っていたモルを横目で見る。
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