30 / 56
30.警告と助言
しおりを挟む×××
あれから数日。
体調もだけど、気持ちが落ち着くまでバイトは休んでいいと凌に言われて。……何となく、学校にも行ってない。
「……」
ずっと、引き篭もってた。
凌と会った事で、蟠っていた感情は無くなっていった筈なのに。
このアパートに戻って、一人になってから……あんな奴の思い通りになってしまった憤りが、まただんだんと膨れ上がってしまって。
……でも、それだけじゃない。
本当の意味での『身代わり』を初めて知り──竜一に刻み込まれた熱が思い出される度に、思い知らされる。
今でも僕は、竜一の事が……好きなんだって……
*
「……姫!」
その呼び名が聞こえた途端、びくっと身体が震える。
小春日和のせいか、比較的気分が良くて。冷蔵庫の食材が底をつきたのもあって、久しぶりに外出したというのに。
怖ず怖ずと振り返れば、そこにいたのは──凌の後輩。
細身の身体。低い僕とそう変わりない背丈。幼さの残るやんちゃな顔立ち。顎先まで長い髪は、少しウェーブ掛かっていて、毛先に行くほど赤い。
「……え……」
……何で、この人が……
驚きを隠せないでいると、男が明るい笑顔を見せる。
「やっぱ、覚えてなかったッスか。
……俺、ハイジと一緒のチームにいた、元宮類ッス」
「……」
「仲間からは『モル』って呼ばれてたんッスけど……」
『何だ、モルじゃねぇか……』──瞬間、太一の声が脳内に響く。
「……あ、」
そうだ。
以前太一に絡まれた時、間に割って入って助けてくれた人だ。
「ハハッ!」
僕の反応が面白かったのか。顔を綻ばせたまま声に出して笑う。
「……でも、モルって……何で……」
素朴な疑問を口にしながら、その理由を太一が口走っていたのを何となく思い出す。
「あー、それはッスね! 苗字と名前の頭文字を取って、『モル』。
それから。犠牲的な意味での、モルモットの『モル』ッス」
「……ぇ」
「つまり。何か揉め事があると、真っ先に俺が飛ばされるんスよ」
明るくそう言ったモルが片手を頭の後ろにやり、少し照れ臭そうに笑う。
「まぁ、立ち話も何なんで。何処かお茶でもどうッスか?」
その屈託のない笑顔につられて、自然と僕の口角が少しだけ上がる。
「……うん」
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説


男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。



どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる